吉崎智正さん [プロジェクトマネジャー]
長期間にわたるプロボノ・プロジェクトにおいて、スケジュール管理は非常に難しい課題です。しかし、「日本アレルギー友の会」チームは、PM吉崎さんの当初の宣言通り、キックオフ事前ミーティングでチームメンバー全員が集まった2010年4月11日から6ヵ月後の10月3日に、プロジェクトを完了させました。その秘訣は何だったのでしょうか。また、ウェブディレクターである吉崎さんから見た、プロボノ・プロジェクトの特色についても、詳しく伺いました。
キックオフの日に、打ち上げのレストランを予約する?!
――吉崎さんは、4月のプロジェクト開始当初から、納品MTGの日付を10月3日と決め、打ち上げのレストランに半年先の予約を入れるという、驚きの行動をとられました。
吉崎 「最初に打ち上げの予約をする」というのは、前職で大きなプロジェクトに関わったときの、プロジェクトマネジャーのやり方を真似しただけなんです。プロジェクトを進めるには、何か目標があった方がやりやすいですよね。しかもそれは、ウェブサイトの「オープン日」というよりも、打ち上げや、楽しくてイメージしやすいもののほうが、全体のベクトルを合わせやすいと思うんです。
――その日付通りに納品する自信は、どれくらいあったのですか?
吉崎 100%自信があったわけではないです。いつも一緒にやっているメンバーなら感触は分かるのですが、メンバーも相手先も、初めての方でしたから。また、サーバ移転などの普段やらない作業や、CMSの組み込みもあったので、はっきりと見えてはいませんでした。でも、「まず決めてしまう」というのは、自分にとっても決断になるし、けっこうやり易いなって思っているので、次回からもずっと続けようと思っています。
水泳の北島康介選手は、プールの壁をゴールだと思うのではなく、壁にタッチした後、振り向いて電光掲示板を見た瞬間をゴールだと考えるようにしているそうですね。それと同じで、オープン後の打ち上げの日をゴールにすることで、そこまで突っ走れる、限界まで出し切れるという手法が、すごくいいと思います。
どうしてオンスケジュールで進められたのか。
――スケジュール通り進めることができた要因は何でしょうか?
吉崎 2010年4月に開催された「プロボノサミット」で、米国の事例を聴いたのが印象に残っていたんです。その時に、6ヵ月のスケジュールを極力守ることが、成功の秘訣だと言っていました。スケジュールがずれてしまうと、モチベーションが下がったり、別の問題が起きたり、メンバーが抜けたりと、いろいろなことがありますから。
そして、 "Blueprint"(米国でプロボノ・プロジェクトを運営するTaproot Foundationが作成している、プロジェクトの一般的な進め方を記述したガイドブック)がすごくいい、ということも言っていたんですね。ならば、その流れにできるだけ忠実に取り組んでみて、成功の秘訣をトレースしてみようという気持ちがありました。
成功要因の一つは、前半の中間提案を期日内にマーケッターの方々が頑張ってまとめてくれたことが大きいですね。ヒアリング結果がよくまとまっていて、サイト構成案にまで落ちていたので、後半はそれを実装するだけなので余裕がありました。実装のところは今までの仕事で慣れているので、それほど失敗する要因がありません。後工程では、CMS導入のことなど、他のことをゆっくり考えられました。
あとは、普段のプロジェクトだと、新人を教えながらなんとか進めていく、というパターンが多いんですが、プロボノの場合は、メンバーがみんな中堅以上ですよね。しかももともとモチベーションが高い人が6人揃っているわけだから、方向さえ決めてしまえば、ブレないドリームチームです。普通、そんなメンバーでウェブの制作ってやれないですよ、お金がかかりすぎて。
それから、NPO側担当者の丸山様がとてもきっちりした方で、期日までに素材を整理して出してくれたことも、遅れなかった大きな要因の一つです。がんばったアウトプットにもしっかりフィードバックを返してもらえたので、双方認め合いながら進められました。プロジェクトを管理したという感じは全然しませんね。全体のスケジュールを引いて、「期日いついつまでにやってくださいね」と何回か言ったくらいで、あとは進捗管理に近い感じでした。
技術先行ではなく、「ひと」からのアプローチが大切。
――ウェブサイトを作る上で、特に意識したことはありますか?
吉崎 POSTメソッドという手法があります。これは、People[人], Objective[目的], Strategy[戦略], Technology[技術]の頭文字をとったもので、考える順番を示しています。本来、「人」の分析が最初で、そこから目的、戦略に落としていくべきだという考え方です。そうではなく、技術を先に決めてしまい、「これが一番高性能だから…」と言って始めてしまうと、違うところに目的が行ってしまって、失敗することが多いと思います。でも、日本の進め方は、生身の人からのアプローチはまだまだ少ないですね。中小規模のプロジェクトの場合、金額的にも「マーケッター」が入る余地はほとんどありませんから…。
今回のプロジェクトは、最初にいろいろなステークホルダーに対してインタビューするところから始めました。これが本来あるべき姿だということを実感しました。「想定」ではなく、ヒアリングや文献などを通じて入手したファクトに基づいて組み立てていくので、非常にやりやすいし、NPOの方に対しても説得力があります。「これだけの情報があって、そこから導きだされたのがこれです」というのが決まると、あとからプロジェクトの方向性やコンセプトがずれなくなります。
インタビュー・ヒアリングやデータ収集など、なるべく「人」からのアプローチに時間をかけることは、次回からもずっと続けたいと思っています。その環境がサービスグラントには用意されているので嬉しいです。
【参加プロジェクト】
NPO法人日本アレルギー友の会
(ウェブサイト制作/2010.4-2010.10) ★「サービスグラントの実績」記事はこちら
ウェブサイト・サービスグラント
役割: プロジェクトマネジャー
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