もはや生活の一部で趣味。プロボノが生み出す好循環を体現する工藤さんの話
工藤 麻衣子さん(金融会社勤務 事業企画担当)
プロボノでの役割:プロジェクトマネジャー
参加プロジェクト:東京都障害者水泳連盟、NPO法人なんぶ里山デザイン機構、
世界自然保護基金ジャパン、ICT救助隊 ほか
2018年のプロボノ登録以降、継続的にプロボノプロジェクトに参加。今や“生活の一部”であり“趣味”と表現するほどプロボノにハマっているという工藤さん。これまでのプロジェクトの中から、主に、都心から離れた地域活動をプロボノで応援する「ふるさとプロボノ」、「なんぶ里山デザイン機構」のプロジェクトマネジャーとして、鳥取県内と都内のプロボノメンバー総勢10名と共に取り組んだプロボノ経験について伺いました。
(2020年8月8日開催のプロボノ説明会の経験談コーナーの内容を事務局が編集したものです。)
仕事で介護の現場の事情に触れ、企業人の自分にできることを考えた
――現在までのお仕事とプロボノに参加したきっかけは?
金融会社に勤めています。部署はB to Bのビジネスがメインで、企業の先にある企業のためのことばかりを考えてやってきました。
ある時、高齢者の事故を削減する新規ビジネスを担当することになり、B to Cのビジネスを考えるにあたって、高齢者介護に携わっている方とお話しする機会がありました。初めて企業ではない人に向いて仕事をしている方に触れて、「いいなぁ」と思うと同時に、現場にある課題に、私だったらこうするのになぁと思うことが通りにくい現場の事情を知りました。介護の現場は忙しいので、これからどうして行こうかとじっくり考えて対策する時間がなかったり、現場は現場で考えがあるのでなかなか改善していくことが難しい。そのなかで、企業で勤めている自分に何かできることがないかと漠然と考えていたところに、たまたま仕事で知り合った先輩がプロボノに参加している話を伺いました。プロボノという関わり方があるんだなとサービスグラントのホームページを見ていたら、新しいプロジェクトが始まるタイミングだった、というのが初めての参加の経緯です。
――参加の決め手になったことは何かありましたか?
プロボノが初めてだったので、どこかと比較検討してから参加というよりは、とにかくチャンスがあればやってみようと思っていたのですが、サービスグラントでは提案資料のテンプレートがあったり、進行ガイドがあって1から全部考えてやるわけではないことや、チームで取り組む、事務局やプロジェクト経験者の進行サポートがあるなど、初めてでもやりやすそうだと思ったことはあります。
自分ごととして地域への愛着が高まる「ふるさとプロボノ」の魅力
――ふるさとプロボノの特徴や魅力はどう感じられていますか?
プロボノが生活の一部のような感じでハマって、いくつかプロジェクトを経験した時に、他の経験者の方から「ふるさとプロボノがいいよ。地域密着で現地に行ったりもできるし、一回やってみたらいいよ」と聞いていました。その時にまた、タイミングよく新プロジェクトが立ち上がると聞いて、ちょうどいいと思って手を挙げました。鳥取県の南部町というとこで、空き家を探して移住者に提供する移住促進など、地域づくりの活動をされているNPOの情報発信を応援するプロジェクトでした。地域を知り、理解を深めるために1泊2日の合宿形式でヒアリングしたり、現地視察として南部町の良いところを紹介していただいたり、地域の方々にいろいろとヒアリングをさせていただきました。
都内の団体を応援するプロジェクトでは、団体の課題そのものが大きな社会課題だなという印象を持つことがあり、自分が関わっても100%改善することはなかなか難しいかもしれない、と思うこともあったのですが、ふるさとプロボノでは、地域に密着したいくつもの経験を通じて愛着が高まり、一緒に何かしたいなぁと思う独特な雰囲気と世界観がありました。一緒にこの課題が解決できると何か変わるかも、と思えたことが大きかったと思います。自分ごととして掴める規模感で、自分がやったことがより生かされそうと思えるところが良かったのかもしれません。
――東京から離れた地域と関わる選択肢は、例えば、観光などもありますが、プロボノとの違いはどこにあると感じますか?
私たちも地元で有名な大きな木や、神社、眺めのいい展望台に行きましたが、ただ行ってぶらぶらするわけではなくて、「このエリアには空き家があって」「ここは新興住宅地でね」と課題に関する説明を受けたり、団体さんが同行して地域ならではの話題を提供してくださったりしました。実際に町会長さん同行のもと、空き家も10軒くらい見せていただき、一軒一軒空き家に至った背景や、なかなか空き家を移住者のために譲ってもらえない事情などを教えていただきました。地域の方とのコミュニケーションが豊富にあるので、ただ行って観光地を回るよりもその土地、地域を知ることができたと思います。
心に残る、支援先さんと思いが一つになった瞬間
――これまでの5つのプロボノ経験の中で、特に印象に残っている出来事は?
最初のプロジェクトが、障害者水泳連盟という障害者スポーツを振興されている団体のサポートで、役割はプロジェクトマネジャーだったのですが、初めての提案を迎える前に、支援先団体から、プロボノに取り組むことへの内部のコンセンサスが取れずプロジェクトを辞めたいという旨の連絡があり、それが一番衝撃的でした。メンバーで一生懸命、提案内容を考えていたので、私たちが考えたことを最後に聞いてほしいとお伝えしたところ、提案を聞いた団体の代表から「ここまで考えてくださったのだから私たちも頑張らないといけないと思ったよ」とプロジェクト再開の意思を決めてくださって最後まで続けることができたのが一番印象に残っています。
鳥取県でのふるさとプロボノは、パンフレット制作のプロジェクトでしたが、お話を聞けば聞くほど団体がやりたいことは広く、大きな街全体の空き家問題をどうにかしたいということ。パンフレットの作成が解決への一助にはなっても、課題の根本を解決するのは難しいと感じたので、パンフレットはまず作成したうえで、町おこしのプロジェクト企画や、パンフレットのデザインを生かしたポスターの展開を合わせて提案してみました。その時に、団体の方から、「パンフレットを作って終わりと思っていたら、やってほしかったことを全部盛り込んでくれてすごく嬉しい」と言っていただいて、言葉を交わしたわけではないけれど、思いが一緒になった、私たちが一生懸命やったことがちゃんと伝わっているんだなという感覚を持ったことが印象に残っています。
――プロボノ活動を進める上で大変だったこと、工夫したポイントは?
離脱する方がいた時に、急に人数が減ってもすぐ足せばいいというわけではなく、メンバーの気持ちを下げないように、プロジェクトマネジャーの立場から、団体さんのために、と気持ちを上げていくのは大変ですね。また、提案をまとめきる、成果物を作りきる最後の方は必ず負荷はかかるもので、盛り上げるのは大変ではありますが、大変な時でもチームみんなで越えていく感覚は「プロボノは強いな」と思いますし、実際に乗り越えてこられたことがいい思い出になっています。
工夫していることは、チームメンバーとの相互理解を早く進めること。3-6カ月くらいのプロジェクト期間中には、親交を深めてメンバーのことをよく知って理解していくことにじっくり取り組んでいる時間がありません。早く自分のことも知ってもらわないといけないし、相手のことも早く理解することが大事だと思っているので、自分のことを早く紹介して、私はこんな人ですとオープンにしていきますし、どんどん自分から質問したり、どう思っているの?と引き出したり、それぞれがどんな特徴を持っているのか、どんな得意を持っているかを早く知ろうとする努力は必要だと思っています。
仕事での経験は必ずプロボノでも生きる。プロボノ経験後は仕事もスムーズに
――仕事の経験やスキルでプロボノに生かせていると思うものはありますか?
文系の人間なのでスキルと言えるものがないなかでの参加でしたが、プロジェクトを立ち上げて進めてみる、上司の決済を仰いで確認をとる、など企業内で物事を進めていくプロセスや考え方は生かせるというのは根底にあると思います。一方で、具体的なスキルを生かしたい、これがやりたい!と臨まれるよりは、いろいろな仕事を経験してきた自分が何かこの団体や課題解決のために役立てることはないかなぁと思えるくらいで臨まれた方がうまくいくように思います。ここをやりたい、これに自信があるというよりは、仕事での経験は必ずプロボノ活動のなかでも生きてくると思って参加されてはいかがでしょう。
――逆に、プロボノの経験が仕事に生きたことはありますか?
あります。プロボノプロジェクトでは、見知らぬメンバーと急にチーム編成をされて約半年間、これまで何も知らなかったNPOのために経験を生かして頑張ってください、といわば放たれるので、コミュニケーション力がすごく鍛えられます。短期間で団体さんとメンバーとコミュニケーションをうまく取りながらプロジェクトを進めていく力が、仕事以上に求められると思っていて、仕事に戻った時にも当然生きてきています。プロボノが日常になってきた後の方が仕事でのコミュニケーションもやりやすくなって、結果、仕事もスムーズに運ぶようになったと思います。
ヒアリングは「大人の社会科見学」どころか「社会体験」くらいの価値がある
――プロジェクトの進め方は?
どのプロジェクトでも基本はヒアリングと調査がベースで、その上で考え方を組み立てていきます。そのプロセスを団体の方と一緒に確認しながら、最終的に事業計画書なのかパンフレットなのかに分かれていくだけで、踏むべきステップはどのメニューでも一緒だと理解しています。南部町のプロジェクトで、成果物のパンフレットにプラスアルファでポスターや町おこしのアイデアも提案したのは、肉付けのような感じです。通常は5名前後が1チームとなりますが、この時は、鳥取に4名、東京に6名の10名編成で取り組んだのでパンフレット以外のプラスアルファの提案ができたという背景はあります。
――プロボノは「大人の社会科見学」と表現されることもありますが実感としては?
ヒアリングのフェーズが大人の社会科見学だと思います。何か興味を持ったとしても、ネットで調べても表面上だけだったりするところ、団体の関係者の方々などにいろいろな側面から聞くことを調整してもらえて、いいところも悪いところも含めてお話が伺えるというのは、簡単には体験できないことだと思います。上辺だけ経験してみた、知ったというよりもはるかに課題に入り込んで、一緒に感じて考える機会を頂けるので、社会科見学というと少しライトに聞こえますが、ヒアリングは社会体験くらいの価値があると思います。
鳥取のふるさとプロボノでは、例えば、空き家を譲ってくれない大きな理由は、大きな仏壇があって仏壇をどうにかしないといけないくらいであれば家は明け渡したくない、ということ。お仏壇の供養をされている住職さんに、どうやったら空き家を提供してくださる方が増えるのかの施策のアイデアを求めてヒアリングに行ったりもしました。なぜあの家は空き家を手放さないのか、や、あの家はこういう供養をしたことで仏壇を手放すことにしたよ、など地元の住民に寄り添っておられる方だからこその意見は参考になりました。
――プロボノを始める前に単発のボランティアなどは経験がありましたか? 単発のボランティアとプロボノの違いとは?
養護施設のお子さんと定期的にイベントに参加して遊ぶボランティアもやったことがあります。ボランティアは求められていることを自分の体と時間を押さえて提供するものですが、プロボノはもう一歩先に行って、時間は同じように割きますが、自分の経験を生かした頭を使った提案や、現場だとゆっくり考える時間がなかったり、こうしたいなと思っている課題をお伺いすることで、次の道筋の整理を一緒にしていくところをお手伝いしていると思っています。ヒアリングの時に深く思いに共感しないと、団体の方が求めている答えを引き出していくことはできないなと思います。どっちがどうということではなく、関わる深さとアウトプットすることが違うという面で、単発のボランティアとプロボノでは違いはあると思います。
プロボノは趣味。やらない理由がない!
――普段の仕事やプライベートと両立するうえで苦労されたこと、工夫されたことがあれば教えてください。
仕事でもプロボノでもトラブルがあったり、スケジュールが重なったり調整が大変ということは少なからずあります。5つ目のプロジェクトに関わっていますが、山好きなので、晴れたらどこかの山に行きたくなってプライベートの予定を立てたいのですが、仕事も忙しく、プロボノも始まるとなると「あぁー」と言いたくなることはあります。でも、私は山に登る時間を大事に思っていると伝えて調整をしてもらったり、お互いを知り合ってコミュニケーションで解決していくしかないと思っています。
――プロボノを一言で言うと?
趣味です。山が好きです、と言いましたが、プロボノは同じところに並んでいる大切な趣味の一環で、かけがいのないものです。他の人から見ると私がプロボノに結構な時間を割いているように見えるらしいのですが、私にとっては全然苦ではなく、好きことをやっている、やっている時間は楽しい、その上でいい経験をさせてもらっていて、コミュニティやネットワークが広がっているので、今後も何らかの形でずっと関わっていきたいと思っています。
――参加者の皆様への一言をお願いします。
やらない理由がないというか、損することがなくて得しかないと私は思います。
大変なこともありますが、そこで得られるものは必ずあるので、何らか興味があればぜひ参加いただいてどこかのプロジェクトでお会いできるのを楽しみにしています。
▼プロボノでのプロジェクト参加へご関心をお持ちになった方は、こちらのページも併せてご覧ください。
▼プロボノ参加者向け説明会を随時行っています。以下より日程をご確認ください。
※掲載内容は2021年4月時点の情報です。