コロナ禍で感じた「社会の役に立ちたい」
杉山瑛美さん(システム開発SE職)
プロボノでの役割:ふるさとプロボノ(メンバー)
参加プロジェクト:コミュサーあおもり(青森プロボノチャレンジ/2020年)
コロナ禍により生まれた時間で、初のプロボノに挑戦した杉山さん。選んだのは、首都圏在住のプロボノワーカーが他地域の団体を支援する「ふるさとプロボノ」のプロジェクトでした。青森県で実施される2か月間の短期プロジェクトで、チームは現地在住・首都圏在住メンバーの混成チーム。年齢も職種も、更には居住地もバラバラのチームの中でも「自然と自分の役割を見いだせた」と話します。
今回のインタビューは、サービスグラント1000プロジェクト達成特別企画の一環として、津田塾大学 総合政策学科 伊藤ゼミの学生たちが実施。プロボノ参加によって引き起こされる、キャリアや社会課題への関心の変化ついて、学生たちの視点から伺いました。
津田塾大学学生さんとのインタビューの様子
自分に生まれた時間を、何か人のために使えないだろうか
コロナ禍でリモートワークになり、通勤に使っていた時間が自由に使えるようになりました。自分のスキルアップのため、コロナ渦前半はひたすら資格試験の勉強に打ち込みましたが、次第に「何か人の役に立つことにも時間を使いたい、自分が持つスキルを活かして何かできないかな」と思い始めました。その後、検索でプロボノのことを知り、今回の「ふるさとプロボノ」参加へとつながりました。
ボランティアをするといつも同じことを感じるのですが、ボランティアとは「してあげる」のではなく「させていただく」もの。今回のプロボノでも、自分が掛けた時間・労力よりも、参加を通じて得た収穫の方が、ずっとずっと大きかったです。
縁のなかった地域で、興味のある分野に携わるプチトリップ
青森県には今までご縁がなかったので、ふるさとプロボノに参加すれば実際に現地訪問できるというのは、大きなモチベーションの一つでした。旅行が好きなので、地域とプロボノプロジェクトがリンクしていたのは魅力的でした。
青森県内の団体を支援するプロジェクトがいくつかあった中で、私が選んだのは不登校の子ども達を対象とした「フリースクール」を運営するNPO団体のプロジェクトです。フリースクールとは、様々な事情で学校に通うことのできない子ども達が過ごせる場所で、ニーズはあるのに存在が知られておらず、実際に通う子どもも少ないという課題がありました。今回のプロジェクトのミッションは、そのフリースクールの存在を、当事者である子どもたちや保護者の方々にどうすればもっとよく知ってもらえるか考えること(広報戦略立案)でした。
もともと、子どもが幸せに暮らせる社会づくりに寄与したい気持ちがありました。子どもが幸せでちゃんとした教育を受けられれば、他の社会課題に対しても付加価値が大きいと考えていたからです。このため数あるプロボノプロジェクトの中から、フリースクールを運営するNPO支援を迷わず選びました。
青森と首都圏、距離は遠くても立場を活かして
参加したチームは首都圏のメンバーが私を含め2人、青森県のメンバーが3人。ミーティングは基本的に毎回オンラインで行いました。最初はオンラインで進めていく難しさを感じましたが、Dropboxなどメンバー間でファイルを共有するツールを整備し、Zoomもみんなが使いこなせるようになってきてからは、スムーズに議論が進むようになりました。プロジェクト期間中、2回だけ青森を訪問できたのですが、普段オンラインで話しているからこそ、直接チームメンバーに会えた時はとても嬉しかったです。
作業的な分担では地理的制約を加味して、首都圏のメンバーはデータ集めや資料の取りまとめを中心に、青森県のメンバーは足を動かしてヒアリングなどに動いてくれました。
業種や職種の違うメンバーが集まることは本当に面白かったです。金融系の知識がある方は採算のシミュレーションデータを作ってくださったり、調査に詳しい方はアンケートフォームを作る時に分析手法を見せてくださったり。
「東京から興味を持ってくれてありがとう」と声を掛けてくれる人もいましたし、青森のプロジェクトに温かく迎え入れてもらったと思います。
支援先への中間提案の様子
支援先のNPO団体は、チームからの提案を慎重に検討されていたのが印象的でした。SNSの利用を提案したところ、はじめは「青森ではデジタルツールにどの程度馴染みがあるのか」「効果が出るのか不安」と心配されました。
それでもチームとしては、当事者の子どもたちにフリースクールの情報を届けたいという思いに対する手段として有効であるはずという思いがあり、子どもがSNSを見ているというデータをご説明したり、県内の保護者へのアンケートを取って地元の人の生の声を伝えたりしたことで、徐々に団体の皆さんも提案に前向きになって下さいました。
チームで使っていたLINEグループがあるのですが、プロジェクト終了後にあるメンバーが「団体さんのSNSアカウントができていますよ!」と情報をアップしてくれて、みんなで喜んだりしています。
自分にできることは、自然と見えてくる
当初参加するときは、どんな風に自分が役に立てるんだろうと思っていました。チーム内の役割も最初は手探りで、その場その場で必要なことをやっていた感じでした。データ集めなどは誰でもできることなので、みんなで分担したりもしましたが、私はそこから徐々に、提案資料や成果物の構成、全体スケジュールの管理といった部分も担当していきました。最初からそうしようと思っていた訳ではなく、本業のシステム開発でプロジェクト管理をしているので、自然とチーム全体の進行を見ながら成果物を作る、マクロ的な役割になっていったのだと思います。
今回のプロボノ活動において、システムの専門知識はほぼ使わなかった一方、仕事で培ったクライアントやチームとのコミュニケーションスキル、調整スキルが活きた気がします。どんな方でもお仕事の経験があれば、自然と、プロジェクトが進行する中で自分がやるべきことが見えてくるのではないでしょうか。
支援先への最終提案の様子
フラットな関係だからこその議論の進め方
プロボノでは、チーム全員がフラットな関係性の中で色々なことを決めていくスタイルでした。会社の業務では上下関係があるので、この点がとても新鮮でした。
フラットな組織では、決まった誰かが「これで行こう」と決断していくことはありません。そのため、プロボノチーム全員が「どの案も良さそう」と思っていると、球が中央に落ちてしまって話が進まない場面もありました。私は、チーム内では年齢が下の方ということもあり、最初は遠慮してしまいましたが、段々と「これで行きませんか?」と投げかけて議論を進めるよう意識しました。オンラインミーティングではどうしても伝える手段が言葉だけになってしまうので、慣れないうちはとても緊張しました。
またプロジェクト中は、他の人と意見が違ったときに、否定してしまわないように心掛けました。普段の仕事では社内の人と長いお付き合いの前提がある中で、意見の違いを伝えて、議論しながら信頼関係を構築していくのはよくあることですが、2か月間のプロジェクトでは、そこまでの猶予はありません。お互いの言ったことを尊重しながら、正しい方向に進めていくことに気を使いました。
成果物に関してもこれが正解という言い切れるものはない中で、どうしたら支援先に喜んでいただけるかは非常に悩んだところでした。支援先の担当の方に途中経過をこまめに見ていただくことで、少しでも認識の差異を減らそうと心がけていました。
チームの中でも「成果物をどこまで仕上げるか」はもちろんすり合わせが必要で、分担の仕方も難しかったです。最終的には私から提案スライドのたたき台を提案し、個人の得意分野やモチベーションを加味しながら、スライドごとに担当を分けることになりました。一人一人が、分担されたスライド(提案箇所)のリーダーとなり責任を持つことで、誰かからの強制にならず、それぞれが突き詰めたいところまで調べ、全員参加で成果物を仕上げることができました。
色々な年齢、バックグラウンドを持ったメンバーがいる中で、チームが一丸となって同じ方向に向かって動けたことはかけがえのない経験となりました。また、支援先からもたくさん感謝の言葉をいただき、大きな達成感を得ました。
青森プロボノチャレンジ2020 全プロジェクト合同の「成果報告会」にて
地域活性化に対する興味の広がり
今回、普段の仕事では関わらないような人と、一緒に汗をかきながらに一つのことに取り組むという経験をさせていただき、改めて外の世界に目を向ける重要性、面白さに気付けました。また、チームメンバーや支援先さんとのご縁ができたことも収穫でした。しばらくリモートワークは続くので、今後も色々なボランティアに挑戦したいです。
特に「ふるさとプロボノ」には、ぜひまた挑戦したいと思っています。青森県のプロジェクトでも、他の地域のプロジェクトでも。というのも今回初めて青森を訪ね、地元の方と沢山お話しする中で「住んでいる人が少ない」「高齢の人がとても多い」といった現地のリアルな状況を知り、改めて地域活性化の重要性に気づかされたからです。今後もプロボノ活動などを通じて、各地域に何かポジティブな変化を(小さくても)起こせるようなアクションを続けていきたいです。
インタビュー後記(津田塾大学 学生のみなさんより)
・杉山さんの行動力に感激しました。自分も、何に興味があって何を成し遂げたいのか、改めて見つめ直し、行動に移していきたいと思いました。
・社会課題の解決に寄与したいという思いを持ってキャリアを練られている姿勢に感銘を受けました。行動し続けるために必要なエネルギーを保つには、杉山さんのように視野と関心を広くもって社会を見続けることが重要なのだと思いました。
・プロボノを通じて得たものが「フラットな状態のメンバーで構成されたチーム」での経験というお話があり、いわゆるボランティア活動では得られないプロボノならではのものだと感じました。
・社会人として働きながら全く別のコミュニティに自ら飛び込み、異なるバックグランドを持つ人々と同じ目的に向かって行動することの大変さを感じました。その中で人間関係を構築しながら、自分の意向を上手く伝達したりすることを率先して行っていたと聞き、私も杉山さんのようにしなやかに生きることができる女性になりたいと思いました。
▼プロボノでのプロジェクト参加へご関心をお持ちになった方は、こちらのページも併せてご覧ください。
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※掲載内容は2021年3月時点の情報です。