社会貢献での出会いは、人生の財産
酒井 佳代子さん(エネルギー会社 管理職)
プロボノでの役割:マーケッター、ビジネスアナリスト
参加プロジェクト:スカイスポーツクラブ取手(2019年)、東京都知的障害者卓球部会(2020年)
会社を離れた後の自身のキャリアに関する不安と社会課題に対する関心から、プロボノに参加した酒井さん。プロジェクトの中で、より良いチームづくりや自身のスキルに対する発見を得るとともに、女性や障害者の社会での活躍などの関心領域に対する知見の広がりは非常に大きかったと言います。
今回のインタビューは、サービスグラント1000プロジェクト達成特別企画の一環として、津田塾大学 総合政策学科 森川ゼミの学生たちが実施。プロボノ参加によって引き起こされる、キャリアや社会課題への関心の変化ついて、学生たちの視点から伺いました。
会社の外で、まずは腕試しを
プロボノに参加したきっかけの一つは、社会人になり長い経験を積み、管理職にもなって、時間的余裕が少しできたことです。併せて、ダイバーシティ推進に関わる経験をしたことで、会社の中のダイバーシティ&インクルージョンに関する事だけでなく、社会課題に対して、自分に何ができるかを考えるようになりました。
もう一つは、定年も視野に入るようになってきて、定年後の自分の社会の中での存在の仕方を考えるようになったことです。終身雇用制度が変化していくと世の中でも言われ始めた頃から、例えば自分が55歳で今の会社を離れたらどうなるのか、自分には何ができるのか、と漠然と考え始めました。自分のスキルが社会で通じるのか、ポータブルスキルと言われるようなものが自分にあるのか、すごく不安になったんです。まずは何か動いてみよう、プロボノであれば、それを試せるかな、と思い、登録したのがスタートでした。
それまで、周囲でプロボノをしている人の話は聞いたことがありませんでした。友人に言うと「えらいね」と言われることもあるのですが、参加の動機としては、腕試しに使わせていただく、というところもあって、そこは少し違和感を持ったりもしています。
遊びでも趣味でもない場での出会いと気づき
昨年初めてプロジェクトに参加したのですが、「はじめまして」で出会うチームのみなさんは年齢や経験もバラバラ。でも、サービスグラントのプロジェクトでは、フローや進め方のステップ、それぞれの役割も決まっているので、それの流れに則っていけばきちんと活動ができるようになっていました。不安はなく、不思議なほど自然に「チーム」感が生まれ、話も盛り上る。メンバーはみな社会への貢献意識が高い。前向きな話ばかりできるというのが嬉しいところでもありました。会社の外に出て、遊びや趣味ではない部分での気づきを多く得られたと思っています。
「ダイバーシティ&インクルージョン」仕事での体験とも重なる新たな学び
私が参加した2つのプロジェクトは、いずれも障害のある方に対する教育や活動機会の創出などに取り組んでいる団体です。仕事で障害を持つ方の採用活動にも関わっていたのですが、企業にとっての「障害者雇用率2.3%の達成」ということと、実際に障害を持つ方が来てくれたときにどんな仕事をしてもらうのか、どうしたらもっと力を発揮してもらえるのかを考えることは大きく違うということを実感を持って学びました。仕事での様々な体験と重なって、発見も多く、非常に刺激を受けています。
視点が変わり、プロジェクトもスムーズに! 「チームだなぁ」と感じた瞬間。
チームメンバーは多様で、みなそれぞれに本業を持っていて、その本業にかけている時間もそれぞれです。忙しい中で、何とか時間をつくってプロボノで社会貢献をしようとしている人もいて、大きなパワーをいただきました。そのぶんプロジェクトにスピード感も出て、2時間はかかりそうな議論が、30分の打ち合わせでガガっと進んだりしたことも。でもやはり本業優先なので、あるメンバーの作業が締め切りに間に合わないこともあり、そんな時は、他の人がカバーする必要があります。
会社だと、締め切りは絶対。正直、「そんなに忙しいのに、なんでプロボノまでやるの?」と思ったこともありましたが、皆、さまざまな思いを持って、プロボノをやりたいと思って参加している。自分でマネージしているけど、難しいことも一時期はある。そういう時は、お互い様。そんなふうに少し長い目で見られるようになったとき、プロジェクトもスムーズいくようになったと感じました。何かを解決するというより、色んな場面で情報共有したり、助け合ったりするよう心掛けることで、様々なことが上手く回るようになった感じです。
お互い遠慮しながらも少しずつ距離感を近づけたり、問題を分け合って解決したり、そういうことができるようになった時、すごく嬉しくて「チームだなぁ」っていう感じがしました。
会社でも、例えば締め切りが守れなさそうな部下がいたときに、何が弊害になっているのか、どうすれば進められるかを相談したり、仕事のアサイン時から先を見越して細かく分担したりと、1人ひとりの事情を以前よりも見られるようになった気がしています。
キャリアに対するコンプレックスからの脱却
プロボノへの参加を通して、自分が会社で経験してきた世界はやはり狭いと気づきました。意思決定の方法、考え方のベースなど、だんだん自社の型にはまってきていたのだなと。プロボノで色んな経験を持っている人たちと話すと、多彩なアイデアがぽんぽん出てきて新鮮に感じます。
私は専門性がないことがコンプレックスでした。これまで会社では人事、物流、そのほか色々な経験をしてきて、社内の5~600人は名前を聞いただけでプロフィールを答えられる。でもそれだけは社会の役には立たない。
プロボノに参加して、議事録を取る、マニュアルを作る、資料をまとめる、NPOの方にインタビューするなどの場面で、チームメンバーから褒めてもらうことが何度かありました。この歳になって、とも思いますが、それがとても嬉しくて。メンバー同士、常にお互い褒め合うのというのもあるですが、それがNPOの活動に役立つのを見ると、コツコツと経験してきた様々なことが意味を持っていたのだと気づくことにつながりました。まだ、これらをどう今後のキャリアに役立てられるのかは分からないのですが。
非営利組織と会社、女性活躍の面での違い
仕事でダイバーシティに関わったこと、女性活躍などの流れで職場で初の女性管理職に登用された体験もあり、女性が置かれている社会的ポジションについて関心があったことから、サービスグラントで行っている「ソーシャルアクションタンク(女性が生きやすい社会をデザインする)」にも少し参加しました。
以前は、就職の際に、総合職・一般職というようなコースがありました。私は総合職で会社に入ったのですが、大卒で入社した同期の女性のうち、一般職だった女性は今の会社にはもう1人だけです。時々、もし当時の仲間がまだ会社に居てくれたら、ダイバーシティ視点でのあれこれの悩みも一緒に分かち合えたかもと思うことがあります。
コース別という制度が男女差別や学歴差別の隠れ蓑になっていることから、経験があって、周囲から頼られていている一般職の女性は、なかなか管理職にはなれない。まだまだ、制度はあっても充分に活かせていないと感じています。逆に、非営利組織には理事長などにも女性が多く、プロボノや他のボランティアにも参加するなかで、やはり女性が意思決定するポジションにいる事は重要な意味を持つのでは、と思うようになりました。
今コロナ禍のなかで、女性の自殺が増えてしまっているということ、非正規の方々で職を失ったのは女性の方が多いといった話などを聞くと、仕事を通じてだけでなく、何か自分にもできることはないだろうかと思うようになっています。
視野の広がりで膨らむ社会への想い、これからに向けて
NPOには、関わる人にボランティアが多いことでの運営の難しさも多いと思うのですが、会社的な動き方、プロジェクト管理や人材管理のスキルなどが現場にあると、もっと効率が上がるのではと感じることがありました。NPOならではの活動として、効率という考え方に否定的にならざるを得ない部分もあるかとは思いますが、お金の流れや仕組みの見直しなど、何か、改善することでもっと社会にインパクトを与えられるのでは、と考えたりしています。
また、ダイバーシティ&インクルージョンに関する課題の中のひとつとして、子どもの教育機会について考えることも多くなりました。今、ひとり親家庭や生活困窮家庭の子に勉強を教えるボランティアをしているのですが、子どもたちが、望まない人生を押し付けられたり、やりたいことをあきらめたりしなければならないようなことが無くなればいいなと。子どもが機会を公平に享受できる社会に向けて何ができるかということも考えています。
ボランティアを通じて出会うご縁というのは本当に良いものです。社会貢献に高い意識を持つ人との縁ができることは、人生の財産。インタビューしていただいた学生のみなさんも自分から動いて、社外の人との繋がりづくりを続けてもらえたら嬉しく思います。また、会社に入ってからも、社外に目を向けることの重要性を是非覚えておいていただき、社会人になってからでも、機会があれば思い出してもらえればと思います。
インタビュー後記(津田塾大学 学生のみなさんより)
- 自分がキャリアを積んで仕事が落ち着いた時に、社会的に貢献できる活動をする上でのビジョンをいただき、とても貴重なお時間でした。女性の働き方、社会でのあり方については自分なりに意見を持ち、改善策を模索する必要があると感じました。自分の人生観やライフスタイル、価値観を明確にし、会社の外にも出ていろんな人と出会う体験をしてみたいと思わされました。
- 「プロボノの活動が定年退職後のキャリアにつながっている」ということにとても驚き、将来のキャリアを考える上で重要な経験を築くことができる機会なのだということを知りました。将来プロボノに参加したいという気持ちがさらに高まりました。
- 皆を引っ張っていく立場としての苦悩や工夫を伺うことができて、大変参考になりました。
- 印象に残ったお話は、NPO団体での女性の参加率が多いというのが、単純に女性の方が社会課題に関心が高い割合が多いというだけではなく、もっと根強い問題が起因しているという点です。表社会においては男性が手綱を握っている中で、一般の会社や政府などがfocusできない課題を女性中心のNPO団体が担うことに対し、改めて考えさせられるところがとても多かったです。
- プロボノは、支援を受ける人だけでなく、支援をする側の人にとっても良い機会になるのだなと強く感じました。また、職場環境や退職後においてジェンダーが壁となっているということも、私たちの身近な問題であるし、そこでまたプロボノの支援が必要となってくるのだと思います。
- 今後私が仕事を始めた時にその仕事だけでなく他の環境のことも知っておくことで、また別の考え方が出来る人になりたいと思いました。
▼プロボノでのプロジェクト参加へご関心をお持ちになった方は、こちらのページも併せてご覧ください。
▼プロボノ参加者向け説明会を随時行っています。以下より日程をご確認ください。
※掲載内容は2021年3月時点の情報です。