本当の課題はなにか? スキルを活かし、支援団体の「お困りごと」へ柔軟に対応
久住 裕司さん(技術サービス業 マーケティングリサーチ・コンサルティング職)
プロボノでの役割:マーケッター / サポーター/ ビジネスアナリスト
参加プロジェクト:多数
本業ではマーケティング一筋の久住裕司さん、プロボノを知った2013年から毎年続けて継続的にプロボノプロジェクトに参加され、現在4件目のプロジェクトに参加中。プロボノを通して自分自身が変化したことを感じているとのこと。どういったプロジェクトを経験され、何を感じてきたのか、お話を伺いました。
なにか社会の役に立てれば、という思いがあった。
―普段されている仕事の専門分野を教えてください。
社会人として20年間、ずっとマーケティングの企画一筋です。どうしたらお客様に満足していただけるか、商品を買っていただけるか、ということを明らかにするために、お客様がどう思っているかアンケートをとって、そこからお客様のことを分析して戦略を練るということをやってきました。
―プロボノに登録されたのは何年前でしょうか?
プロボノに登録したのは2013年3月だったので今から約4年前です。greenzというウェブサイトで知ったのがきっかけでした。プロボノに登録した理由は三つあります。
一つは自分のスキルが役に立つかもしれないという思い。プロボノのプロジェクトでは、NPOさん、地域活動協議会さんといった団体の困りごとに対して解決に向けての支援をします。なので、普段の仕事で対価をもらってやっていることと、そんなに違いはなくやれるだろうと思いました。
もう一つは、2011年3月の東日本大震災が起こった当時は関西電力系列のマーケティング会社に在籍していたのですが、周囲ではソーシャル系の活動が目立ってきているという状況がありました。その中でプロボノという活動が自分に響いてくるものがあったということです。ボランティアかどうかはあまり関係なく何か社会の役に立てることができれば、と思っていました。
最後の一つですが、子どもがまだまだ小さかったので転職までは考えられなかった。そこでボランティアならば、と思ってプロボノを始めました。
どんな要求でも、柔軟に対応できるようにしたい。
―最初に関わったプロジェクトでは、支援先が地域活動協議会と聞いています。何を求められていて、どういったミッションがあったのでしょうか?
支援先は、大阪市生野区の東中川まちづくり協議会(生野区では、地域活動協議会のことを“まちづくり協議会”としています)でした。地域の方に対して、防災や餅つきイベントなどの情報を発信していきたいという思いを持たれていました。
立ち上げているウェブサイトを改善したいという話もありましたが、それ以前にそもそも地域にどういった人たちがいて、その人たちがどういったことを求めているかわからないという課題があって。だから、まずは課題を明らかにするための調査を行い、誰に対してどういった情報発信をすると効果的なのか提案をするプロジェクトで進むことになりました。
このプロジェクトには私はマーケッターとして参加しました。課題の解決に向けてこれまでの仕事の経験を活かすことができるだろうと思いました。
―サービスグラントの事務局から、支援に入るかどうか参加の意思を聞かれたと思いますが、プロジェクト参加へ至ったのは、ミッションへの共感だったのでしょうか? それとも他の理由でしょうか?
ミッションへの共感はありました。それとタイミングという点もあったと思っています。プロジェクト参加当時は子どもが3歳でだんだん手がかからなくなってはいましたが、できるだけ自分の家から近いところが良いという気持ちもあって、複数の支援先の募集がありましたが、その中で一番近いところを選びました。
本業や私生活のことも考慮して、できる範囲でコミットしました。
―プロジェクトに入って支援をしてどうでした? やりがいはありましたか?
とてもやりがいがあるプロジェクトでした。5人でチームを組んで、まずは東中川地域にお住いの方がどんなニーズを持っているのか知るために、地域にはどういう人がいて、どういったことをやっているかを調べていきました。
PTAの会合や地域の主婦の集まり(味噌づくり教室)などに行ってヒアリングして、子どもがいるお母さんや孫がいるおばあちゃんに話しを聞き、それぞれのニーズを抽出していきました。そして、どういった対象者に何をどう見せていくか、いくつかにグルーピングし優先順位をつけて支援先に提案することになったのが年末のことですが、そこでは合意には至らなかったんですよね。まずは調査と提案からというキックオフミーティングの時に話したプロジェクトの範囲からずれてきているとも感じました。
―大変な状況だったと思いますが、そこからどう進めたのですか?
支援先からは、3月までにウェブサイトを改善してほしいという強い要望がありました。こちらとしても支援先が抱えている課題の解決につながるならば、と思って年明けに方向性を決めるためのミーティングを実施。そこで出た結論は、ワードプレスを使って、ウェブサイトの大枠は作るけれど、文章や画像といったコンテンツは支援先側で登録していくということにしました。そこに行き着いた理由ですが、ウェブサイトの見た目は必ず変えてほしいという支援先の強い思いと、あとは高齢の方が多い団体でしたがコンテンツを登録するといった運用ができる担当者がいて、その方が対応するということで合意ができたためです。
支援先でウェブサイトを運用するためのマニュアルまで作ることも含め、約束したものは2月末に全て納品することができました。
私はマーケッターというポジションですが、ワードプレスを使ってのCMS構築にも対応したおかげでワードプレスに関する知識もつきました(笑)。
―支援先さんが希望する納期と、どこまでを成果物にして納品するかという調整はとても大変だったのではないかと察します。次のプロジェクトに活かしたいと思われたことはありますか?
基本的にプロボノのプロジェクトでは開始前に各支援先さんと話し合って決めたプロジェクトの範囲や目標に基づいて進めます。しかし、プロジェクトが始まり、改めて面と向かって対話をしていく過程で希望されていることがより明確になることがあります。そこもきちんと押さえ、どんな要求が来ても柔軟に対応できるようにはしたいと思っています。
ここは本業でも同じですね。ただ、そうはいってもかけられる時間といった制約があります。できること、できないことはあるので、全くできないものが来た時にどういった対応をするか、ということはあらかじめチーム内で合意はしておきたいと思いました。例えば、チーム内で解決できないようなことが起きた場合は、チーム内だけで悩まずに事務局にすぐに相談するといった流れを最初から作っておくといったことです。
プロボノを通して変わった仕事のスタイル
―プロボノの魅力はどういったところにあると思いますか?
他流試合をやってみたい、という方にもオススメできると思います。仕事で普段接することのない支援先に対してきちんと対応できるか自分試しができることは魅力です。
―プロボノが仕事に活きていると感じるシーンはありますか?
プロボノを始める前と比べて圧倒的に変わったのは、オンラインミーティングで議論ができるようになったこと。顔を突き合わせなくてもやれるということが分かりました。
プロボノプロジェクトのチームメンバーは本業とプライベートの合間を縫って、持てる時間を少しずつ持ち寄ってやっています。できるだけ密度の濃い時間にしなければという意識を持っており、顔を合わせてのミーティングは真剣そのもの。チームメンバー間で予定を把握し、ミーティングのルールも決めてやっていましたが、それでも時間が足りない時はオンラインで議論をしていました。
その経験もあって本業でもオンライン会議を提案しています。プロボノの経験を通じて、会議の効率化を意識するようになりましたね。そういった点が変わったところだと思います。
―他にもご自身が変わったと思われることはありますか?
プロボノ経験者数人で「税金はどこへ行ったプロジェクト*」という自主プロジェクトを立ち上げたり、本業ではないところでプロジェクトに参加して、自分で企画を立ててやっていくということをやり始めました。
プロボノに参加する前まではお客さんの注文に従って仕事をやるというスタイルだったのですが、企画を自ら立てるスタイルに変わってきたと思っています。
―最後に、「プロボノ」に参加してみようかな、と思っている人に対してメッセージがあればお願いします。
大阪では「プロボノWednesday」という誰でも気軽にプロボノ経験者と交流できる場があります。
毎月第3水曜日の夜、このイベントに参加してみて、会場で開かれる交流会でプロボノ経験者に話を聞いてみることは参加の後押しになると思います。実際にそれで参加してくれている人もいますし。
例えば、プロボノやりたいけど小さいお子さんがいるから躊躇している方がいましたが、プロボノのリアルな声を聞いて、やってみようと思われて、実際にプロジェクトに参加される方もいました。なので、少しでも興味があれば、ぜひリアルな場で経験者の声を聞くということをお勧めします。
【参照】
*税金はどこへ行ったプロジェクト:大阪府民が大阪府に納めた税金がどこで使われているか示すことができるサイトを作るプロジェクトのことです。
税金はどこへ行った?サイトはこちら
久住さんが参加したプロジェクト
・生野区・東中川「LINEでつなぐ若者と地域活動」プロジェクト
・鶴見区・一度で二度おいしいアンケートづくりプロジェクト
・東桃谷地域まちづくり協議会ふれあいのともしびを消さない!広報の事業計画PJ
・地球環境市民会議
※このインタビューは、毎月第三水曜日、関西で開催している交流イベント、プロボノWednesdayの「経験者徹底インタビュー企画」(2017年6月21日開催)をもとにお届けしています。インタビューは植田唯起子さんにご協力いただきました。