仕事に限らず経験を積んでいくことが大事
寺島 鉄兵さん
プロボノでの役割:マーケッター
参加プロジェクト:コウノトリと育む(ふるさとプロボノ)(2011年3月~2011年12月) / 湘南DVサポートセンター(2013年6月~2013年10月)
プロボノワーカーとして、二つのプロジェクトを担当してきた寺島さんは、「仕事に限らず経験を積んでいくことが大事」だといいます。
地域社会の課題解決や地域経済の自立を応援するプロボノプログラム「ふるさとプロボノ」で、環境共生型の地域づくりに取り組む兵庫県豊岡市の支援チームのプロジェクトマネジャー、学校でのいじめ防止のために、子どもが自主的に考え、行動することを目的としたメソッドを提供している湘南DVサポートセンターのアカウントディレクターとしてプロボノを経験してきた寺島さんに、プロボノ登録のきっかけやその思いを聞きました。
メンバーにいかにアウトプットを出してもらうか
寺島さんは、2010年にプロボノワーカーとしてスキル登録をし、これまでに二つのプロジェクトを担当してきました。一つ目のプロジェクトは、「ふるさとプロボノ」。地域交流型プロボノプログラムとして2011年4月にスタートしました。
「プロボノへの社会的関心が高まっていますが、プロボノワーカーとして活躍するビジネスパーソンやクリエイターは大都市に集中しています。大都市から離れた地域でもその地域の課題解決に取り組めるように、プロボノワーカーとの接点をつくる地域交流型のプログラムがスタートしたんです。このプログラムの1件目として、兵庫県豊岡市を担当しました。5月の連休に、メンバーと一緒に2泊してヒアリングをしたこともあって、メンバーとのコミュニケーションは密なものになりました。」
二つ目のプロジェクトは、湘南DVサポートセンターの事業計画を担当することに。いじめやDV防止プログラムの開発や提供を通じて、生徒自身が自主的に考え、行動するためのプログラムを開発し、多くの学校で導入されています。
「一つ目のものとはプロジェクトの形態も役割も違いましたが、プロジェクトマネジャー、アカウントディレクターという役割は、いずれも自分が専門家としてアウトプットを出すというよりも、いかにメンバーにアウトプットを出してもらいやすい環境をつくるかというプロジェクトのマネジメントをする側ですね。」
一つのプロジェクトのために、同じ意識を持った人が集まりますが、初めて会う人ばかり。その中での案件進行は、ボランタリーがベースとなるため、個人の都合は最大限尊重する代わりに、メンバーのスケジュールが合わない場合には、あたらしいメンバーに入ってもらうなど、通常の仕事以上に機動的に動いたそうです。
自分が経験したことのない経験をもらえる機会
それでは、プロボノに登録した“思い”は、どのようなものなのでしょうか?
「こうしたプロボノについては、人生観や価値観ってそれぞれですから、捉え方も人それぞれですよね。そういう意味では、プロボノを含めて自分の仕事だと思っている人もいるでしょうし、プロボノはあくまでボランティアだと考えている人もいるかもしれない。私自身は、この議論とは少し離れるかもしれませんが、生きている以上は成長しなければならないと思っているんです。つまり成長するためにやるべき事柄があれば、仕事か否か、給与をもらう、もらわないに関わらず、それはやるべきだと」
参加することで得られる経験はかなり大きい。だから積極的に参加したほうがいいと続けます。
「生きていく上で、仕事に限らず結果を出すことって大切ですよね。最後は、人間って行動に移して結果を出さなくちゃいけない。ただ、行動する手前には、こうしたい・しようという想像というかイメージを持つ必要があると思うんですが、イメージはどうつくられるかというと、大部分がその人の経験に支配されていると思うんです。経験していないことってイメージしにくいですからね。突き詰めると、行動は経験に規定されている部分が大きいと思っています」
経験する機会は、選り好みせずに多いほうがいい。自分の経験値にないことを経験する機会があるならば、それはやってほいた方がいい。仕事について、勤め先という“所属”は、あくまで一側面でしかないのだと寺島さんはいいます。
自分は、社会のために何ができるのか
縁があってたまたまこの会社に勤めているけれど、会社という組織だけではなくて、それ以外の時間もどんな経験が積めるかを考えたいと寺島さんはいいます。
「私は、本質的に他者との関わりはすべて貢献だと思っているんです。逆にいうと他者がいるから貢献という概念ができてくるわけで、社会のために何ができるか、自分はどう貢献できるか。私にとってプロボノは、プライベートな時間で遊ぶことと並列なんですね。当然だと思っているから、“社会貢献”と、特別に力が入っているわけでもない。遊ぶことと合わせて、自分の経験を積むためにやっているだけなんです」
貢献することを考えたきっかけは、阪神・淡路大震災でした。大学受験の最中だっという寺島さんは、自分の目で震災を目の当たりにします。
「実家は大阪の吹田市なんですが、受験先に神戸方面の大学もあって。受験会場の大学は残っているんですが、いわゆる最寄り駅が機能していないんです。電車も通っていないし、歩いていくしかない。歩いていると、家という家が倒壊しているという状況でした。受験に赴く気持ちにもならなかったのを鮮明に覚えています」
当時はご家族がボランティアとして被災地支援に奔走していたのだとか。そうした震災を経て、“社会”というものを自然と意識するようになったそうです。また、健康を大切にしているのだと話してくれました。
「骨髄バンクにドナー登録をしていたんですが、登録してから何年も経って、適合する方がいるという連絡が来て。骨髄移植は、移植しても必ず命が助かるというものではないんですが、私の場合は、提供させていただいた方から“おかげさまで退院できるようになりました”という手紙をいただきました。こちらはちょっと仕事を休んで病院に入院したという程度のことだったんですが、その手紙には生きていけるということそのものに感謝の念が綴られていて。生きていることの価値について、誰かの役に立つということについて、いろいろと考えさせられた経験でした」
生きている限りは、成長して自分以外の誰かのために、社会のために貢献すること。
社会との接点なしには、人は生きることはできません。だからきっと、誰もが持っている背景があるはずです。何かに迷いがあるときには、視野を広げるために、いままではつくれなかったイメージをつくるために、あたらしい人と出会い、あたらしい経験を積む。
それが自分自身の経験となり、同時に誰かのためにもなっているならば、そこには得難い価値があるはずです。
※掲載内容は2014年1月取材時点のものです。