プロボノで得られたのは、チーム全体を
高い水準で揃えられるかという視点
本田杉子さん(パナソニック株式会社 デザインセンター勤務)
プロボノでの役割:デザイナー、ビジネスアナリスト
参加プロジェクト:CAPセンター・ジャパンのWEB制作支援(2014年)、
全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)の研修資料作成(2019年)
※いずれも企業協働プログラム「Panasonic NPOサポート プロボノ プログラム」として。
―――ふだんはどんなお仕事をされていますか?
勤務先ではプロダクトデザイナーの肩書が長かったのですが、最近はBtoB市場にネットワーク機器を導入し、様々なソリューションを考案するサービスデザインの仕事をしています。
一方で、大学院のコミュニケーションデザイン・ラボと、自分で設立したアーツ&デザインラボにも所属して研究活動をしています。アーツ&デザインラボでは、アウトプットをもっと魅力的なものにしたいという社会人に向けて、デザイン系のワークショップを開いてデザインのノウハウをお伝えしています。会計や医療に関わる参加者もいらっしゃるのですが、みなさんのプレゼンテーション資料がどんどん綺麗にわかりやすくなっていきます。見映えを含めて内容が伝わり易くなる方法や、見やすい色や文字の大きさのコツや感覚を身に付けて、資料に残す情報の取捨選択が速くなるといったグラフィックデザインの力を身につけていただいています。
私も、グラフィックに特化したデザイナーではないので、教えながらも半分は学んでいる感じです。そうすることで両方が伸びる「半学半教」という考えが大学にあって、いつもそれを実践したいと思っています。
―――プロボノのきっかけは何でしょう?
プロボノに初めて参加したのは2014年です。
もともとボランティア活動に興味はあって、どこかで役にたちたいなと思っていたときに、社内で募集がありました。当時は大阪勤務。支援先は大阪を拠点に活動しているCAPセンター・JAPANというNPOでした。説明会で、CAP(Child Assault Prevention=子どもへの暴力防止プログラム)を知り、ぜひ関わってみたいと思いました。
企業プログラムなので、共通言語をもつ人たちとチームが組めるし、コミュニケーションツールも同じ。ノー残業デーも同じだからスケジューリングも楽だろうと。初めての私でも効率的にお手伝いができるかもしれないなと、ちょっとドライな考えもありました。
支援先の課題はWEBのリニューアル。ウェブデザインは専門ではありませんが、デザイナーとして参加しました。
二度目のプロボノは、東京勤務になってからです。昨年の夏、やはり企業プログラムで全国災害ボランティア支援ネットワーク(JVOAD)を対象とした募集があり、自分に合ったプログラムのように感じて参加しました。
JVOADさんは、災害が無い平常時と実際に災害が起きた際のそれぞれで、さまざまな支援組織と連携して、コーディネーションを行う団体です。被災地域における「コーディネーター」を育てる研修も行っています。課題は、「災害支援をあちらこちらで経験したNPOにはさまざまな知見が蓄積されているけれど、その団体内だけに留まっている。これまでの事例やノウハウ集を作成して、被災地コーディネーター育成の研修に活用したい」というものでした。
実は私は、2011年の震災の時にちょうど日本にいなくて、仕事で上海から大阪に帰国する飛行機の上だったんです。発災直後なのでたくさんの飛行機が関西地方に迂回して、その影響で着陸がかなり遅れたのですが、その時は遅延した理由も状況もわからないまま帰宅しました。大震災で全く揺れを体感していないことへの心の引っ掛かり、「あの瞬間は怖くて大変でしたね」という話ができないもどかしさもありました。
そういう意味では、JVOADさんは被災者を直接支援するだけではなく、数多くの支援団体をつないで後方支援をする機能が強い団体。当時の恐怖感といった実体験を共有できない自分でも引け目を感じずに協力できる部分があるのではないかと。
また、私が仕事をしている製造業では、創意工夫して効率性を高める「カイゼン」をとても大事にしているんです。元々のJVOADさんの強いしくみに加えて被災地コーディネーター育成のためのノウハウ集が加われば、今の活動の効率がさらに何倍もよくなる。そういうカイゼンの視点でお手伝いするということは自分に合っているのではないかと思いました。
集まったチームメンバーは6人。みな同じ会社ですが、職種も職位も違う、異なるスキルを持った方。それぞれ自分の担当に集中できるタイプの方たちばかりで、フラットなチームでした。私はビジネスアナリスト役で参加しました。
―――災害支援といってもいろんな分野がありますよね?
災害支援の分野は多岐に亘ってあまりに膨大です。なので、JVOADさんやサービスグラント事務局とヒアリングを重ねて、ノウハウ集では「被災住宅の再建」にテーマを絞り、住宅再建にかかわるボランティア活動を6つのカテゴリーに分類して、6人のメンバーで分担してさまざまな関係者へのヒアリングや調査を行っていきました。(詳細)
ただ、プロジェクト開始後に令和元年房総半島台風(15号・ファクサイ)や令和元年東日本台風(19号・ハギビス)がきてしまい、お話を伺おうとしていた方々が災害現場対応で多忙になり、予定どおりに調査ができなくなってしまいました。
そこで改めて相談し、ヒアリング先を絞って、公共機関のサイトや書籍でのリサーチや防災国体のようなイベント参加で可能な限り有益な情報を集めたうえで、「ノウハウ集の元になる資料」を作成するという方向で再提案しました。長期的に活用できるものを想定し、情報の追加や更新もしやすい構造の資料作成にしようと途中で作戦変更をしたんです。
―――担当されたのは「廃棄物」のカテゴリーと、全体の統合処理だったとか。
自分の担当ブロックでは、廃棄物の処理の仕方に現地のボランティアはどうかかわるのがよいかという点についてヒアリング調査や資料化をしました。
ヒアリングは、災害支援のNGOのリーダーの方や、普段は建築のお仕事で土日に現場に駆けつけてボランティア活動をされている方など、当時まさに現場で活躍されている方々に実施させていただきました。休日や昼間は災害対応をされているので、事前にアポをとって活動の邪魔にならない夜間などにお願いしました。
コーディネーターの研修資料なので、コーディネーターが現地で最適な調整を行うために、何にフォーカスを当てて伝えるべきか、重心の置き方など探りながらお話を伺いました。
たとえばそのひとつが、「住宅が一部損壊認定だった時の廃棄処理」です。
災害で家が壊れてしまったとき「被害認定基準」というのがあって、全壊、大規模半壊、半壊、そして半壊に至らない一部損壊に分けられる。この4つのうち、全壊はがれき撤去などの費用が全額補助の対象なのですが、一部損壊にとどまると壊れているにも関わらず公的な支援がとても少ないため、ボランティアで撤去を手伝うことが費用的にも被災者の大きな助けになる区分だと調査ではっきりしてきました。また、地域や災害の規模によって支援対象となる区分が変わったりすることもあり、そういった廃棄処理についての対応のポイントを明確に伝えられる資料にしました。
当然、法律も関わるので、親切心だけでやってはいけない部分があります。斜面が崩れていても、ショベルカーを持っているからといって助けようとして、うっかり法に触れるような大変なことになったりしないようにとか。そういった法律に関することもいろいろ調べて、チーム内でお互いに共有しました。
JVOADさんからも、できるだけ被災者の方たちに役に立つ情報を伝えられるものにしたいとリクエストをいただきました。公的な情報以外でも、被災者のリアルな声わかるブログなどをネットで調べたり、足りない情報は大学図書館で専門書を借りたりして勉強しました。ただ、大規模災害は毎年あるものではないので図書館の本だと内容が古いこともあります。いろいろ情報を集めて整理するのは難しくもあり、パズルのようで楽しくもありました。
調べていくと、公的支援制度もどんどん変更されていて、補助の対象が広がっていることもあります。ですので、資料では、「災害支援中でも最新の情報を確認して伝えること」が大切なポイントであることも明記しました。
こうした制度のことだけでなく、正直それまで自分がわかっていなかったこともクリアになっていきました。ボランティアさんたちは、細やかな配慮をしながら活動されている。
例えば、被災で壊れた家具や家電なども、被災者にとっては生活の思い出のあるものだから、絶対にゴミとは呼ばずに「泥をかぶってしまった家財」という表現を使うように徹底しましょうとか。被災者が余計に傷つくことにならないようにとボランティア同士で情報交換したり、ボランティアセンターでレクチャーを行ったりしている。現地での支援は、本当に人対人の支援で、ボランティアさんたちは言葉ひとつとっても気を配りながら頑張っているのだと知りました。
各メンバーが作成した6つのカテゴリー資料を、ひとつの資料にまとめる最終仕上げの段階では、それぞれ体裁や情報量が異なっていたので、かなり整理する必要がありました。全体を俯瞰して、パワーポイントでまとめるのに6ブロックのフォーマットやグラフィックを揃えたり文章量を加減したり。また、当初の「研修資料(ノウハウ集)」を、途中で「元になる情報整理(資料作成)」に変更したので、後からでも目的に合わせて作り直しがしやすく、且つこのままでも研修資料としても使用できるというハイブリッドな作りにしました。のちのち情報の取捨選択がしやすいように、情報量は想定していたよりも多めになってしまいましたが。
―――プロボノに参加してどんな感想をお持ちですか?
デザインというのはもともと煩雑なものを簡単にしたり、伝わりやすくにするために余計なものは上手に省くのが美しいといわれていて、情報が過剰な個所をついついバッサリ斬り落としがちなんですけれど、ボランティア活動のような人と人が互助で活動するところでは、これまで過剰だと感じていた部分が実はそうではないかもしれないという、異なる情報デザインの在り方に改めて気づかされました。
自分の思い込みにも気づいて反省もしました。これまでは、社会課題の解決に役立ちたい気持ちが強いあまりに、大なり小なり自分なら何とかできるとつい思いこんでしまうところがあって。でも、結局、現場の活動は人の力で地道にやっていくもので、自分が大活躍するぞ、といった子供じみた自分主体の意気込みが空回りすることもありますし、多くの主義主張を共存させながら人の助けになる方向に進める実直な活動であることを自覚するいい機会になりました。
そのせいか、プロボノのあと、後輩に優しくなりましたね(笑)。自分の方がキャリアが長いから私がやってあげますよではなくて、高位平準化というどうやったら全体で高い位置に揃えられるかという視点を得ることができたと思います。
私を含め、デザイナーは自分の考えたかっこいいデザインを出してやるぞ、みたいに思うこともあります。でも、職種やスキルがバラバラのメンバーでも、全体として高い水準までもっていこう、そして自分も引き上げてもらおうという意識が高まりました。
それと、勤務先は、もともと防災や備蓄に対する意識が高い会社なのですが、今回得ることのできた災害対応の最新の知識やノウハウを会社内にも広めることで、会社の実質の防災活動の向上に関しても役に立つと思います。個人的にも、万が一、実家が被災した時にもすぐに思い出せるようになりましたので、JVOADさんのお手伝いでありつつ、会社にも個人にも大きなフィードバックがありました。サービスグラントさんとのご縁で、素晴らしいプロジェクトに参加させていただくことができました。
―――どんな人にプロボノに参加してほしいですか?
グラフィック系のデザイナーがもっと増えるといいなと思います。今回も思いましたが、最終のアウトプットの美観を整えるということだけではなくて、プロジェクト進行の途中途中で状況やしくみをビジュアル化することで、メンバー同士の考えやステークホルダーの望む方向性を高い精度で確かめることができます。コミュニケーションの齟齬が減れば作業のやり直しも減りますので、スケジュールマネジメントにも貢献できるはずです。著作権の知識もあるので、プロジェクトの創作物の知的財産の安全もある程度は担保できると思いますし、ぜひスキルを活かしてほしいと思います。
―――ありがとうございました。
全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD) ※災害時において、さまざまな支援団体、行政、ボランティアセンターなどと連携し、コーディネーションを行っている。東日本大震災時にはこうした団体がおらず、支援の全体像が把握できなかった。十分な支援活動を行うために調整役の必要性を痛感したNPOの有志らが2016年に「JVOAD」を設立。地域における「コーディネーター」育成のための研修も行っている。 |
本田さんが参加した全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)のプロジェクトはこちら
参考記事:
パナソニックの社員6名が全国災害ボランティア支援団体ネットワーク(JVOAD)のノウハウ可視化に挑戦
※掲載内容は2020年4月時点の情報です。