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塚原宏樹さん(プロジェクトマネジャー)

背景が違う人たちが同じ目的を持つと、
今までになかった価値が生まれる

 

塚原宏樹さん

 

塚原宏樹さん(株式会社東芝 コーポレートコミュニケーション部 参事)

プロボノでの役割:プロジェクトマネジャー、マーケッター

参加プロジェクト:コモンビート(2019年)、東京都IDボウリング連盟(2018年)、東京都ゴールボール連絡協議会(2017年)、楽の会リーラ(2016年)、江戸糸あやつり人形結城座(2015年)、視覚障害者パソコンアシストネットワークSPAN (2014年)

 


 

プロボノを始めて2020年で7年目となった塚原さん。昨年には転職という大きな転機を経ながらもコンスタントにプロボノを続けています。そんな塚原さんが今感じているプロボノの意義、そして本業への影響はどのようなものなのでしょうか。詳しくお伺いしてみました。
これからプロボノに参加してみようかと悩んでいる方、プロジェクトマネジメントにご興味がある方も、ぜひご覧ください。

 

――現在までのお仕事とプロボノ経験について教えてください。

 

社会人になって今年(2020年)で17年目です。そのうち15年間をアステラス製薬で勤め、去年の7月から東芝に転職しました。仕事人生の1/3は営業職、残りの2/3はマーケティング職です。
2014年に初めてのプロボノとして視覚障がい者のICT活用を推進する団体のプロジェクトに参加。以降1年に一つずつサービスグラントのプロボノプロジェクトに参加し、マーケッターやプロジェクトマネジャーとして様々な分野の団体を支援してきました。

 

――プロボノに参加したきっかけはどういったことでしたか?

 

「これからどうしよう」という思いを漠然と持ったことでした。10年も一つの会社にいると、能力は上がってはきているだろうと思う一方で、社外に出たときに自分の力がどの程度通用するのだろうか、という不安がありました。
そこで、確実な達成が求められる実践の場で、自分の能力が通用するかを確認したいと思ったのがまず一つ目です。
二つ目としては、プロボノに「ボランティア」というもの以上の魅力を感じたことです。
プロボノでは、ある程度のコミットと成果が求められますが、そこがビジネススキルによって掛け算されていくというところが面白さだと思っています。サービスグラントでは1チーム5名から7名程度のチームを組んで活動しますが、色んな業界職種の人とスキルを出し合って一定期間で団体の困りごとをクリアにしていく。そこにはちょっと厳しさもありますが、同じやるならば、と考えました。
三つ目には、自分の「居場所」がほかにもつくれないかなと思ったことです。外に飛び出せば、時には新しい出会いがあり、待てば人脈にも繋がっていく。プロボノで得た人脈を糧にして、自分のキャリアに関する相談にのってもらうこともありました。

 

――5年以上コンスタントに参加していただいていますが、継続されている中での気付きはありますか?

 

プロボノは、普段の仕事とは違う脳の部分を使うことができる、トレーニングの場でもあると思っています。毎回チームメンバーも支援先も変わり、プロジェクト内容も変わります。毎回新しい発見や考え方の変化が起こるので、それが楽しくてこれまで続けています。

 

――最近参加した「コモンビート」のプロジェクトはいかがでしたか?

 

NPO法人コモンビートは、“初めて会った100人の人たちが100日間かけて一つのミュージカルを作り上げる”ということをやっていらっしゃる団体です。多様な人が集まって多様な価値観を認め合いながら一つの作品を作るという過程を通じて、個性を認め合ったり、多様性を受け入れあったりという教育をしています。
ただ、ミュージカルとしての注目が高まるにつれて、本来の教育事業としての活動内容が評価されきれてないのでは、という悩みを感じていらっしゃいました。参加したプロジェクトではそこに対して「事業評価」をするというものでした。

 

具体的には、コモンビートが実施している事業をモデルとして可視化し、アンケートやインタビューを実施しながら定量的・定性的に評価していきました。最終の成果発表後にはワークショップを行い、今後の活動についてコモンビートのスタッフとプロボノチームのメンバーで共に考えました。
約6か月のプロジェクト期間中、月1回程度でしかFace to Faceで集まる時間はなく、主にSlackを共有のツールとして使って進めていましたが、オンラインでもチームの一体感をつくることができていたので、会った瞬間からすぐに議論を始められるような感じで、最後もみなが笑顔で終わったプロジェクトでした。

 

――塚原さんはプロジェクトマネジャーとしての経験が豊富ですが、プロボノでのプロジェクトマネジメントには、どういった特徴があると感じていますか?

 

プロボノでは、関わる人が多様なだけに、様々なスタイルがあると思っています。
例えばオーケストラように、指揮者となって曲調や音色を決めて、メンバーには「ここで音色を聞かせてください」というスタイル。ジャズのアンサンブルのように「みなさん自由に弾いてください、時には自分も入って引っ張っていきます」とするスタイル。あるいは、バンドのプロデューサーのように「しっかりと場を用意するので自由に力を発揮してください」という一歩引いたスタイル。

プロボノをして様々な人と協働することで、関わるメンバーや場面によってリーダーシップの仕方、マネジメントの仕方を変えられるようになりました。また、そのために全体像を常に描いておくことができるようにもなったとも思います。

あと、プロジェクトマネジャーは常に陽気で、ニコニコしていることもとても大切だと思っています。

 

本業の方でも、転職をしたことで、初めて会うような先輩方と一緒に仕事をするなかでリーダーシップを発揮すべき時もありますが、そういったときにプロボノを通じて学んだことが活きていると思います。

 

――塚原さんにとって、プロボノはどんな「場所」でしょうか?

 

異なる背景でありながら、社会的な活動がしたいという共通の意思で集まった人と共にチームとなって働けるというのは楽しみでもあります。全く背景が違う人たちが、同じ目的を持って、同じ方向を見る。すると、一人ひとりその見方に違いが出てきて、それらの視点を組み合わせることで今までになかった提案ができる。そこに面白さを感じます。
そういったバックグラウンドの違いがあることが共通認識にもなっているので、ちょっとでもいい発言や提案があったら、「さすがだね」「なるほど」「ありがとう」と言いあったり、逆に「間違っているかも」というときも躊躇なく伝えたりできる。僕はそれを、チームを輝かせる“灯の言葉”と言っています。

“灯の言葉”があることで、僕にとってのプロボノは安心感を得られる場ともなっています。これらがみなさんにとっても、お金とは違う、感情の報酬になっているのではないでしょうか。

 

プロボノは「大人の社会見学+α」。志を持って社会的活動をされている、その現場を見に行けるだけではなく、そこに提案をすることができる。企業という営利組織と違った目線、違った仕事の進め方や意思決定を経験できる。新しい知能を磨くため、自分と異質な発想の人たちと出会える場に出向しているような感じを抱いています。

 

――プロボノへの1歩を踏み出すにあたって、不安を感じるという声もありますが、塚原さんから見てどうでしょう?

 

最後は「えいやっ」の気持ちかなと思います(笑)。まずは、自分が今何をしたくて、どういう思いを持っているのかというのを自分の中で確認するのが大切だと思います。自分の中で確認してプロボノが合いそうなら、ちょっと試してみてはどうでしょうか。

 

どの程度時間を使うことになるのだろうかというところでいくと、サービスグラントでは「1週間のうち5時間程度」と明確な目安が設定されていたり、プロジェクトとしてやることの範囲があらかじめしっかりと決められていたりします。そういったことを説明会で一つひとつ確認できるのは一つの安心材料になるかなと思います。
あとは、プロボノ参加経験のある「プロボノワーカー」の方がゲストで来られて、生の声を聞ける説明会がありますよね。そういった場である程度不安を払拭することもできるのかなと思います。

 

参加するにあたっては、役割としていろいろなポジションが設定されていますが、チーム内で役割分担をしながら進めていきますし、決してハードルは高くないと思います。僕の経験上でも、普段のお仕事で何年かの経験を普通に持っていれば、プロボノはできると思っています。

支援先の分野も様々ではありますが、プロボノでは、個々人のスキルの深さや幅よりも、異なる視点を持った人たちでの対話を通して新しい発見をしていくこと自体に価値があり、支援先団体からもそれを求めてもらっているという部分も大きいのではないかと思っています。
対象者の話をしっかりと聞いて、それに対して自分の経験と結び付けたコメントができるという能力が最も重要かなと思っています。

 

以前、プロジェクト中に「違うことが楽しい、ってあるんだな」と言っていたチームメンバーがいて、とても印象的でした。同じ言葉でも、普段異なる環境にいる人同士だと、とらえ方がそれぞれ少しずつ違うかもしれない。そういったところにも気を使いながら進めるのがプロボノです。でもそれが、例えば海外と仕事をするときにも役立ったり、一つひとつが学びとして、新たな視座になっていくと思います。
「プロボノ=Diversity & Inclusionの実践」なのではないでしょうか。

 

塚原さんが参加したコモンビートのプロジェクトの様子はこちら

 

※掲載内容は2020年5月時点のものです