不妊治療に適切なサポートを。国政に訴え、結実したアドボカシー支援
支援先団体:NPO法人 Fine
プロジェクトの種類:その他(アドボカシー支援)
※本プロジェクトは、法律の専門家が集うプロボノ団体「BLP-Network」の有志メンバーとサービスグラントプロボノメンバーがコラボレーションして取り組んだものです。
※本記事は、当時のプロジェクトに参加したプロボノチームが支援先団体に向けて行ったオンラインインタビュー(2021年12月)を元に作成しました。
プロジェクト当時の活動内容
仕事と不妊治療、両立しやすくするために
不妊で悩む人をサポートする、不妊当事者によるセルフサポートグループ「NPO 法人Fine(ファイン)」。不妊で悩むカップルは5.5組に1組、不妊治療のために女性が退職をするケースも数多い。
こうした現状を背景にFineが取り組んでいる活動の1つが、企業などにおいて不妊治療を受けやすくし、仕事と不妊治療を両立するためのアドボカシー活動です。
しかしながら、国会請願や要望書などによる要望と署名活動では、具体的な成果につながっていませんでした。
企業の制度導入をサポートするガイドを作成
そこで、プロボノプロジェクトでは、国を介さず、企業・団体による不妊治療の支援制度導入を直接的にサポートできるようにすることで、不妊治療者の「仕事と治療の両立」実現に資することを目的としました。
まずは、Fineの研修に参加したり、団体で取得しているアンケートを精査して、課題に対する理解を深めるとともに、不妊治療の支援に積極的に取り組んでいる企業にヒアリングを行いました。また、海外における支援制度の調査をBLP-Networkのメンバーが担当しました。
これらを進めるなかでの気づきを踏まえ、チームは成果物の方向性を明確化し、企業における実効性の高い、不妊治療の支援制度導入のガイドの作成を目標成果物として設定しました。
最終的には、提言書に代わる「不妊治療支援を通じた更なる女性活躍推進について ~制度導入の必要性と導入ガイド~」、また調査報告書として「欧米各国における生殖補助医療(ART)の支援制度」をプロボノチームで作成。Fineのみなさんと構成から内容の詳細に至るまで確認、調整のうえ最終化していきました。
現在は団体ウェブサイトから制度導入を検討する企業、自治体などが自由にダウンロードできるよう公開されています。
プロジェクトのその後(支援先団体からの声)
成果物はその後、団体を通し、議員連盟や厚生労働省労働政策審議会の部会などで配布するほか、厚生労働副大臣に要望書と共に提出されました。これらの活動は、早くも以下のような具体的な成果につながっています。
- 不妊治療の保険適用の実現、当事者の負担軽減のための施策が推進された。
- 厚生労働省が、くるみん制度への不妊治療支援の要件追加。不妊治療と仕事の両立のサポートを国が後押し。
- 厚生労働省主催ピア・サポーター養成事業創設により、精神的負担へのサポート推進へ
- 厚生労働省事業 不妊・不育の啓発が本格的にスタートし、専用啓発サイトも開設
成果物のホームページからのダウンロード数は、2020年5月公開以降の約1年半で「制度導入の必要性と導入ガイド」が216社、「欧米各国における支援制度」が127社にも上っています。
ダウンロードされたことをきっかけとして、企業へのアプローチもしやすくなり、社内での対応の現状についてのヒアリングを行ったり、団体が行っている啓発セミナーや制度導入のコンサルティングの提案活動などにも結びつきやすい流れができました。
自治体からの依頼も格段に増えているため、課題としては今後いかにそういった事業を継続していくかという事になっています。
団体スタッフからは、「制度導入ガイド・欧米の調査結果といった成果物は、これまでのFineと異なる視点のものでした。国からの視点としても“患者団体”という見方だけではなくなり、認知と信頼性アップにつながったと感じています」。また、「各種受賞やメディア露出の機会も多くなったことで、不妊に関する認知自体が上がっています。認められることで、不妊当事者も勇気づけられるのではないでしょうか」といったお話も頂きました。
インタビュー後記(プロボノチーム)
プロジェクトを開始した2年前(2019年6月)は、国への要望が成果につながらないとの課題感でした。
その後、2020年に菅政権になり、不妊治療の保険適用の政策という後押しがあった頃から、Fineさん(特に代表の松本さん)のメディア露出が急激に増え、関連する制度の整備が加速したようです。プロジェクトの成果物である「不妊治療支援の制度導入ガイド」と、「欧米各国の支援制度調査報告」が、その制度整備の一助となったとFineさんに評価いただいて、作成に関わったプロボノチームの一員として、強い手ごたえを感じました。
成果物は、菅政権となる直前にホームページで公開されましたが、このタイミングで準備できていて良かったと思いました。あと1年遅かったら、また違った状況になっていたかも知れません。アドボカシー支援という特殊なプロボノプロジェクトでしたが、このような国政の変化と、不妊治療に関わる全ての人たちのお役に少しでも立てたと思えることは、プロジェクトに携わった者としても望外の喜びです。(しいけん)