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【開催レポート後編】企業が取組むプロボノ最前線
ー国内初 8社横断意識調査報告と導入事例ー

 

SDGsへの取り組み、ESG経営の推進、越境経験を通じた人材育成、働き方改革の推進など、プロボノが持つ多面的な可能性や効果への期待から、近年、企業内でのプロボノの取り組みへの関心が高まっています。

 

本レポートでは、2021年度から2022年度にかけて津田塾大学・神戸大学と協働で実施した、企業内プロボノ導入企業8社240名超のアンケートデータと、50名以上のインタビューによる国内初の企業横断調査の結果についてご報告します。企業でプロボノを推進されている担当者の方々からの、現場の手ごたえと実感に関する事例紹介と合わせてご覧ください。

 

 

本レポートはSession2のレポートです。Session1のレポートはこちらからご確認ください。

 

※当レポートは、2022年10月12日に開催されたオンラインセミナー「 企業が取組むプロボノ最前線 ー国内初 8社横断意識調査報告と導入事例ー」で発表された内容に基づくものです。

 

目次:
Session1 企業内プロボノ導入企業8社横断意識調査の結果報告
登壇者:津田塾大学総合政策学部 伊藤由希子教授/森川美絵教授

 

Session2 トークセッション:企業の取組事例の紹介~調査結果と現場の実感値
登壇者:SAPジャパン株式会社 太田智氏/SMBC日興証券株式会社 古路祐子氏/住友商事株式会社 江草未由紀氏/伊藤由希子教授/森川美絵教授
モデレーター:サービスグラント代表 嵯峨生馬

 

Session2 トークセッション:企業の取組事例の紹介~調査結果と現場の実感値

 

Session2では、今回の横断調査に協力いただいた企業より、SAPジャパン株式会社 太田智氏、SMBC日興証券株式会社 古路祐子氏、住友商事株式会社 江草未由紀氏を迎え、各社の取り組みや実感をお聞かせいただきました。

 

企業の全体方針や戦略などの大きな文脈の一部としてプロボノ活動を位置づけることの重要性や、社員が業務内の活動としてプロボノを行うための制度設計への道筋、プロボノが企業にもたらす人事育成面、社会貢献面、さらにプラスアルファの成果や期待などを、企業におけるプロボノ活動を最前線で推進されているご担当者ならではの様々な視点からお話しいただきました。

 

企業としてプロボノに取り組む背景

 

Q1:企業として取り組まれている各社のプロボノ活動について簡単にご紹介ください。
太田氏:エンタープライズ・アプリケーション・ソフトウェアの会社である我々SAPジャパンは、「世界をより良くし人々の生活を向上させる」というビジョンのもと、日本の社会課題解決をデジタルやイノベーションを活用して支援していくことを目指しています。

 

このビジョンをさらに具体化するため、2023年に向けた大きな目標として、「SAP Japan 2023 Beyond」 と呼ばれる3か年計画を2020年に作り、6つのグループ(「社会」「顧客」「人」「製品・サービス」「認知」「サステナビリティ」)に分かれて活動しています。ボランティアというわけではありませんが、150名ほどの社内メンバーが業務の一端として活動しています。

 

私が所属している「社会」のグループでは、「笑顔で暮らせる豊かな社会を作っていきたい」ということを大きな目標としています。そのために何をしていけばいいのか?ということで、大きく2つのチームに分かれて活動しています。このうち、わたしは「CSR for Everyone」でリーダーを務めています。

 

➀ CSR for Everyone
CSR活動を通して、社会への貢献に関する従業員のマインドセットを醸成、向上させる活動。社員が社会活動に関心を持つ裾野を広げるプロジェクトを展開している。

➁ National Agenda
日本がかかえる社会課題をSAPが持続可能な形で解決に取り組むナショナルアジェンダ活動。2019年に発足し、企業だけではなく自治体、NPO/NGOなどと協業をしながら活動を拡大。また、社会活動に興味を持つ社員が社会課題解決につながる新規事業を生み出している。

 

この具現化のために、「CSR for Everyone」では、3つの活動を進めています。1つ目は、社内CSRチーム中心に我々のプログラミングを学生に提供する活動。2つ目は、多くのNPOの方にお話しいただくことで、社員が社会課題を手触り感をもって理解を深めていくことを目的にした「ハチドリトーク」。3つ目は、自身が持つスキルや経験・知識を活かしながら、社会課題を知り、関わりを深めていく、プロボノ活動をやっています。「National Agenda」の活動では、課題とSAPのソリューションをかけあわせて社会課題解決につなげていきます。その入り口を作っていくのが「CSR for Everyone」の位置づけで、プロボノ活動はその一役を担っています。

 

そして、社員全員に浸透させていくために、2つの目標を設定しています。

 

目標➀:プロボノ実施回数(約1500人の社員が、1人あたりプロボノを2回体験するぐらいの数値)

目標➁:SAPの社員の取り組みを外部の方や社員家族から認知してもらえること

 

この目標を達成するために、先ほどご紹介した、いろいろなNPOの方にお話していただくセッションのほか、サービスグラントさんと協働してプロボノ活動を去年立ち上げました。昨年に引き続き、今年も3団体の支援を行っています。

 

プロボノとしてはまだ2年目ですが、いかに拡大していくかを現在考えながら進めていこうとしています。

 

古路氏:SMBC日興証券では、2020年から業務時間の一部を使って活動できる「プロボノワーク」をスタートしており、私はその事務局を務めています。プロボノワークは、プロボノとワークを掛け合わせた当社独自の造語です。

 

開始の背景としては、社会課題が多様化するなかで、NPOは私たちがリーチできない課題の解決に取り組んでおられ、かつその役割も非常に大きくなっておられる一方で、課題として「人」と「お金」が非常に不足しておられるとの認識がありました。この「人」の部分で貢献していこうとする取り組みがプロボノワークです。

 

プロボノワークのミッションは、サステナビリティ戦略はもちろん、経営戦略や人事戦略の実現にもつながると考えております。また、ビジョンは、プロボノを通してNPOの運営基盤の強化をお手伝いして課題解決に貢献することはもちろん、参加する役社員の社会課題に対する認知の向上にもつながると考えています。

 

当社ではプロボノワークに応募した役社員で支援団体ごとにチームを組んで活動しています。参加形態は、業務時間も使えるプロボノワーカーと、プライベートな時間に活動するサポーターのいずれかを選んで活動できる体制にしています。サービスグラントさんには、チームと我々事務局をサポートいただいています。

 

非常に特徴的な点はパートナー制です。1クールにつき4チームが同時に活動しており、当初は事務局が伴走していましたが、現在は、プロボノ経験者にチームのコーチ役として入ってもらい、半分事務局のような形でサポートしてもらう体制を取っています。こうした体制を整え、現在第5期が活動中で、これまでにのべ155名が参加しています。これまでの活動期間がほぼコロナ禍だったこともあり、完全オンラインで展開していますので、現在は支店のある北海道や沖縄からメンバーが参加、さらには海外からも参加しており、物理的な制約なく参加できる活動になっています。

 

当社のプロボノワークは、予め活動内容を決めているものではなく、支援先の課題やご要望をヒアリングして対話を繰り返しながら支援内容を固めていく活動になっています。活動事例として二つの団体をご紹介いたします。まずグラミン日本、生活が困窮する方への少額融資を通じて自立を支援する団体で、こちらではシングルマザー対象のワークショップの運営に我々のメンバーが携わりました。もう一方はシブコト、こちらは現在支援中で、障がい者兄弟姉妹のためのサイトを運営している方々をサポートさせていただいています。

 

江草氏:住友商事のプロボノは、「100SEED」という社会貢献活動プログラムの一環で実施しています。100SEEDは、創立100周年となる2019年に、社員主導で立ち上がった社員主導の社会貢献活動プログラムです。今後の100年を見据え、我々は何を守り、何を変えるべきか、グローバル全社横断プロジェクトで議論する機会がありました。その中で、100年先の会社のことだけでなく、100年先の社会についても考えよう、さらに考えるだけでなく、自分たちで行動しようという議論に繋がり、立ち上がったプログラムです。その後、取り組むべき課題については、SDGs17目標から社員投票で選び、「良質な教育をみんなに」をテーマに掲げることが決まりました

 

支援活動を始めたのは2020年。コロナ禍ゆえにオンラインが中心となりましたが、ロックダウンの影響が比較的少なかったアジアをはじめ、世界各地のグループ社員が、それぞれの地域の教育課題に根差した活動に取り組んでいます。昨年度は16か国44プロジェクトが立ち上がりました。

 

日本では3つの活動に取り組んでいきます。

 

➀ キャリア教育「Mirai School」
社員が高校に出向き、自らのキャリアや仕事観を話すことで、高校生に将来キャリアを考えるきっかけを提示し、未来を担う次世代人材の育成支援を目指す活動。
➁ 多文化共生社会を目指す教育支援
日本社会で孤立しがちな外国ルーツの子どもたちの教育課題に取り組む活動。彼らを支えるNPOに対するプロボノ支援や、子どもたちに対する学習支援を行う。
➂ 教育支援プロボノ
サービスグラントと協働して行っている、教育活動に取り組むNPOに対するプロボノ支援。2020年から半期に3団体ずつ取り組み、半年に1回の簡易な短期プロボノも含めて、今年の9月末までに長短合わせて20団体、164名の社員が参加。

 

特徴的な点は、経営に組み込まれているという点。2020年に掲げた「サステナビリティ経営の高度化」では、当社が優先的に取り組むべき6つの重要社会課題の一つとして「良質な教育」が選定されています。これら重要社会課題には、主にビジネスを通じて取り組んでいくのですが、「良質な教育」には、主に100SEEDなどの社会貢献活動を通じて、他の課題と同様にKPIを設定して長期目標の達成に取り組んでいます。ここに「良質な教育」が選ばれた背景は、教育が、未来のあらゆる社会課題を解決する人材づくりにつながるとの考えによるものです。

 

この取り組みに会社としてコミットするべく、プロボノ活動を含め、100SEEDの活動時間を一人当たり年間100時間まで業務時間としてみなすことが決められています。

 

 

業務時間内でプロボノを実施する意図とは

 

Q2:社員のプロボノ活動参加を業務内に位置づけておられる意図、効果、あるいは制度を社内で実現させるにあたって、いかに社内でオーソライズしていったかをご紹介ください。

 

太田氏:「SAP Japan 2023 Beyond」の活動は大きな軸として本業とは別に動いていますが、SAP ジャパンを良くしていくために参画が推奨されている活動で、プロボノもその一環に位置づけられていると思っていただければよいと思います。

 

古路氏:先ほどご紹介した経営戦略の中で、SDGsの実現への貢献を会社の方針として挙げていますので、この具体的な方策の一つとして、プロボノを通じた社会課題の解決に、より一層貢献していくことが大きな目的としてあります。

 

以前からプロボノにはプライベートな時間を活用してもらっていましたが、参加者の繁忙期やご家庭の状況が異なるため、一緒に活動できる時間に難しさがあるとの課題感もありましたので、この機に皆さんが業務時間を使えるよう制度を立ち上げたという背景があります。

 

 

江草氏:活動時間を業務時間としてみなすことにより、会社としてのコミットを示すことになったほか、体験談が社内でオープンに語られやすくなりましたこれは活動を推進する我々にとっても、非常にありがたいメリットです。また、教育に関心のある、時短で働くママたちにも、参加してもらいやすくなりました

 

伊藤教授:業務内でプロボノを行うよさは、デメリットがあまり見当たらないことと思います。業務外ですと、やりくりができないとか、皆の時間が合わないなど不満が出る場合もありますが、少なくとも一定時間や一定割合で業務内の枠を作ることによって、その不満が吸収され明確なデメリットがない状態で進められることが最大のメリットかなと思います。

 

森川教授:私が伺った声で、「週明けの部内報告などで、自分がやってきたプロボノ活動の報告を上司や社内のメンバーに堂々とできる。趣味の話などとは違い、なかなかない経験で嬉しかった」との話がありました。社会課題や貢献について自分と同じような思いを共有している人が社内にこんなにいるんだと思える、そういったことについて業務の中でも語り合える空間がある正式な業務の中でやっていいよと言われる安心感なども、発言として出ていたと思います。

 

プロボノがもたらす人材育成としての効果

 

Q3:人材育成面で効果を感じておられるところをご紹介ください。

 

太田氏:人材育成、ひいてはナショナルアジェンダを視野に、社会課題解決のアイディアをもっと出していきたいということが大きな目的としてありますが、ではそのための人材育成とは何なのか?と言うならば、スキルアップよりも、どちらかと言えば認知を改めてもらう意味での育成面があるかと思います。日々の業務で身に付いている能力が社会の役に立つんだ、というような認知の転換は非常に重要で、自分が当たり前と思っている、もしかすると自分はやや劣っているとさえ思っているかもしれないことが、社会ではもっともっと使える能力なんだと、このような認知は非常に重要だと思っています。

 

また、先ほどの研究結果にもありましたが、想いをもって仕事をされているNPOの方に触れることによって、熱い想いをもらう、それによって改めて自分自身の仕事を考える、これが外資でテーマとなる離職率を下げることにつながってくるところもあると思います。最終的にはネットワークにつながっていきますので、ビジネスという意味でも還元されてくるかなと補足できると思います。

 

古路氏:終了後のアンケートで、特に若手の方に多いコメントはスキルアップです。弊社は全国に支店があり、普段は営業をしているメンバーも多くいます。彼らが社内の他の部署のメンバーとチームを組むことで得る気づきや、資料の作り方やスケジュールの立て方などでも非常に多く得るものがあった、と。自分が普段行わない種類の仕事、業務を受け持つことで、自分の得手不得手を改めて認識できたと、自己理解についての声もありました。スキルアップでは、プロボノに参加してから成長が著しくとても頼もしいとの上司からのコメントなど、本人だけではなく周りからもすごく変わったとのコメントが出てきています。

 

江草氏:気づきやスキルを得られるという点で、人材育成の面でもとても意義ある活動だと思いますが、実際には、3ヶ月ではそんなに大きな飛躍はないと思っています。ただ、素晴らしいことは、環境を変えることで、今まで埋もれていた潜在力が開花されうること。例えば、いつも上司からの指示で動いている人が、リーダー不在のプロボノでは、1つのゴールを目指して各メンバーが自分にできることを自発的にやっていくとか。大規模プロジェクトの一部を担っている人が、小さなプロジェクトを完遂させて達成感を得るとか。今まで認識していなかったことに気づくことがあります。

 

また、社会課題に最前線で取り組んでおられるNPOの代表に会って触発される、そのようなところから、その後の成長につながることもありうるのかなと。そういう意味で、若手社員が「化ける」というのはあると思いますし、ベテラン社員は原点に還るといいますか、大切なことを思い出すとか、そんな効能もあるのではないかと思います。

 

 

伊藤教授:シニアの方とのインタビューで「だんだん年を取ってくると仕事ってお金を稼ぐための手段ではなくなるんです」とおっしゃっておられたことに、とても感銘を受けました。仕事やプロボノを通じていろいろな方と関わるなかで、いかに心を磨けるか、人格を練られるか、といった自分の人間力を高めるために仕事をしたいと率直に思っていらっしゃる方が増えています。知らないことを知ることが純粋に大切だという感覚をお持ちですし、20年、30年といろいろな部署を体験したとはいえ、同じ社内では、若手と幅の広い対話ができないのではとおそらくご本人も認識していらして、社外に自ら飛び込んで経験して、それを若手とシェアすることの醍醐味を語ってらっしゃる方がいました。シニアになってもプロボノは学びが大きいなと感じました。

 

森川教授:仕事の在り方や、企業が社会に存在することの意味など、今日のお話でも、企業のミッションとつなげながら位置づけられていましたが、こういう活動は企業の中にどのように位置づけていったらよいのかなど、大局的な目で語られていたのが印象に残っております。人として企業人としての在りよう、企業の活動としての在りようの絡みのなかで、皆さんが位置づけて何かを捉えられていたのが印象的でした。

 

手触り感のある経験だからこそ、企業の社会貢献に活きる

 

Q4:プロボノを通じた社会貢献に加えて、その先の社会貢献性の高い事業などまで見据えたような視点があれば、そちらも含めてご紹介ください。

 

太田氏:新規事業を作る仕組みは会社の中にありますが、急にそこで新規事業アイディアを出そうと言っても、なかなか出てこない。このような課題感の中で、そこに対してどうブリッジをかけていくかということの一環として、プロボノやそれ以外の活動を作っていったイメージです。

 

先ほどお話しました「CSR for Everyone」 と「National Agenda」の間の架け橋がプロボノ活動というイメージで、プロボノを経験した方が、その後新規事業を作っていく活動に参画していった時に、プロボノ活動していなかった人としていた人の差が出てくるのではないか。手触り感をもって、きれいな部分も難しさも含めて非常によく理解できるのかなと思います。我々はプラットフォームビジネスが専門で、支援を必要としている人たちに直接アプローチができません。必ずそこにはNPOが間に入ることを考えると、プロボノでの実体験が今後生きてくると信じてやっておりますし、そうなるように仕向けていきたいと考えています。

 

古路氏:手触り感のある活動をもって社員の認知が高まることが非常に大きいと思っています。社会課題解決には個人でも取り組めますが、企業単位で行うことで、より大きなインパクトをもたらしていくことができます。そのために、社員一人ひとりの認知や理解を深めていくことが必要な中で、プロボノは実際に社会課題解決に携われる機会としてその一助になっていると思います。

 

特に何期も繰り返し参加しているメンバーには、特定の社会課題に大変詳しくなっている方や、NPOの悩みについてよくわかっている方が増えてきていまして、そのような人材は、会社にとっても価値があるだろうと思います。ただ、プロボノの効果、成果については、我々自身もまだきちんと把握しきれていないところがありまして、社会的インパクト評価のようなものを取り入れていくことなど、これからやっていきたいと考えています。

 

江草氏:社会貢献活動に100SEEDを加えたことにより、社内における社会貢献活動に対する認知や関心のレベルがぐっと上がりました。これまでは寄付など担当部署のみが対応する活動が多く、社員の関心は薄かったのですが、今や社会貢献活動は社員全員で取り組むものといった位置づけになりつつあると思います。また、社会貢献に直接ヒットしなくとも、「なんとなくこれって社会貢献かな」というような話が営業から持ち込まれるようになりました。そのような会話が始まること自体がありがたいなと感じています。

 

 

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