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ソーシャルアクションタンクとは?提案者が語る「2030年 日本社会のアジェンダ」

ソーシャルアクションタンクとは?
提案者が語る「2030年 日本社会のアジェンダ」
―ソーシャルアクションタンク シンポジウム2022 基調鼎談より―

 

サービスグラントが運営する「ソーシャルアクションタンク」(以下、SAT)では、アカデミズム×プロボノの新たな挑戦として、社会科学の研究者とプロボノワーカーによる協働研究プロジェクトを推進しています。
2021年夏からスタートした第1期協働研究プロジェクトでは、国際社会において長年にわたって日本が低迷し続けているジェンダーギャップ指数に着目し、「女性が活躍しやすい社会をデザインする」をテーマに、3人の研究者と15人のプロボノワーカーによる熱のこもった議論と研究が展開されました。
その研究成果報告と総括、社会に向けた提案を行った「ソーシャルアクションタンク シンポジウム2022」より、SAT提案者3名による基調鼎談「2030年 日本社会のアジェンダ」の内容をレポートします。
鼎談では、SATの概要と立ち上げにあたっての思い、これからの日本に必要なことが、研究者とNPOそれぞれの視点で語られました。

 

※「ソーシャルアクションタンク シンポジウム2022」は、2022年2月3日、オンライン/Zoomウェビナーにて開催しました。

 

シンポジウム全体のレポートはこちら

 

鼎談「2030年 日本社会のアジェンダ」

 

 橋本 努 氏 / 北海道大学大学院経済学研究院教授
 坂口 緑 氏 / 明治学院大学社会学部教授
 嵯峨 生馬 / 認定NPO法人 サービスグラント代表理事

 

画面左上より、嵯峨、橋本氏、坂口氏

 

アカデミズム×プロボノの新挑戦。
ソーシャルアクションタンクにかける思い

 

嵯峨:まず、私から今回のプロジェクトの概要について簡単にご説明させていただきます。
SATは、2020年1月、大学の先生方と、多くのNPOと一緒に取り組みを進める私たちサービスグラントをはじめ、ソーシャルセクターの実践者たちが連携できないかどうか。社会課題に対して働き掛けていくようなソーシャルアクションを起こし、それを通じて、社会的に市民、企業等、民間セクターに対して、何か発信できないか。そして立法、行政といった公共セクターに対しても、何か発信できないだろうか。そんなチャレンジをしたいという大風呂敷を広げながらスタートしました。
 そして、公開インタビュー等さまざまな取り組みを経て、2021年の夏から始まったのが今回成果をご報告いただく協働研究プロジェクトです。この協働研究プロジェクトは研究者の皆さんと、NPO、そして研究者の皆さんと一緒にプロボノとしてチームを組んでいただいた企業人の皆さん。こういった皆さんをつなぐような“ハブ”としての活動をやっていきたいと立ち上がりました。
 その第1期の取り組みとしては、ジェンダーギャップ指数に着目。日本はご存じのとおり、世界でも先進国の中ではもう本当に最下位、世界でもかなり後位にいるという状況です。

 そこで研究者の皆さまにこんな呼び掛けをいたしました。

 

「研究活動をしているなかで、さまざまな社会課題が見えてくる。そのとき、研究者としても何かメッセージ性のある調査研究にチャレンジしたい方がいらっしゃるのではないだろうか」
「そうしたアイデアはあっても、なかなか実際の研究の企画を立ち上げて調査を実行し、集計、分析を行っていくのは、研究者お一人では非常に厳しいので、そこに協働できるようなチームができないかと思っている先生はいらっしゃらないか」
「実践の現場に働き掛けたいという研究者の方はぜひ」

 

こうした呼び掛けに手を挙げていただいたことが、今回のプロジェクトにつながっています。
 研究者の皆さんとチームを組んでいただいた「プロボノ」というのは、仕事の経験、スキルを生かしたボランティア活動です。従来、私どもサービスグラントは非営利組織に対するプロボノ支援に取り組んでいます。これまでに1100件を超えるプロボノプロジェクトの実績がありますが、研究者の方と一緒にプロボノプロジェクトを組むのは今回が初めてです。そのなかで一体どういう成果が生まれるのかということ自体が、ある意味チャレンジでしたが、本当に素晴らしい調査研究を、クリエーティブに進めていただいたと思っております。

 

 

 

嵯峨:では、ここからは、「2030年 日本社会のアジェンダ」と題して、橋本先生、坂口先生がソーシャルアクションタンクにかけた思いについてお聞かせいただけますでしょうか。

 

橋本:2年前に生まれたSATですけれども、研究者のネットワークと、NPOのネットワークがつながることで何ができるのかということを探り、われわれは建設的なリベラルを新たにつくっていきたいと考えました。
 私がシノドス国際社会動向研究所で毎年のようにアンケート調査を重ねるなかで気付いたのが、新しいリベラルが可視化されていないということです。これまで日本でリベラルというと憲法9条や安保闘争といったテーマに縛られ、そこを一番の政治的な問題としてきた時代が続いてきましたが、大きな時代のモードが変わるなかで、リベラルも新しい意識が生まれてくるのではないかと考えました。ただ、それが言語化されていないのです。
 では、新しいリベラルとは一体、何なのか。いくつかアンケート調査のなかで分かってきたことがあります。一つは、社会課題に対し、古いリベラルは政府が責任を持つべきという考え方だったものが、新しいリベラルはコミュニティレベルでの問題解決を志向するところに特徴があること。これは例えば子ども食堂や、塾のボランティア、養育困難家庭への支援など、さまざまな社会課題に関心を寄せている、あるいは課題解決に向けた活動をしているのが、新しいリベラルの担い手なのではないかという仮説です。
 また、もう一つ新しいリベラルの特徴になっていくのではないかと考えられるのは、ジェンダー指標を改善するために、次の世代、孫世代へ教育投資をしていくなど、社会投資に積極的になってきている志向です。これ以外にもリベラルな考え方と共振する人の傾向が分かってきています。
シノドス国際社会動向研究所では、こういったさまざまなアンケート調査による新しいリベラルの可視化を目指すなかで、SATの取り組みを通し、実践しながら模索してきたい考えております。

 

嵯峨:ありがとうございます。続いて、坂口先生、お願いいたします。

 

坂口:私自身がSATへの参画につながった一番の動機は、教育・労働・家族がマイナスのレベルで均衡している状態を日本の大きな問題と捉え、この問題を解決したいと考えたからです。これは芹沢一也さんの言葉をそのまま引用させていただいていますが、私も深く共感しています。
 日本においては、“男性稼ぎ主モデル”に最適化された社会システムが修正されないまま、100年ぐらい続いていると思っています。民族としては日本人、出生時に割り当てられた性別としては男性、性的指向としてはヘテロセクシュアル、性自認としてはシスジェンダー、日本人シスヘテロの男性に最適な制度というのが社会構造の基本を成しています。
 なので、教育においても大学や高校の男女別の合格水準の違いが長い間、放置されてきましたし、労働においてもメンバーシップ型の職場で働けるよう、残業も転勤もいとわず、競争にまい進できる人が“できる企業人、できる社会人”とされてきました。1986年に男女雇用機会均等法が施行されましたが、それによってかえって総合職と一般職というコース別採用が定着して、そのあおりでもあると思うのですが、正規、非正規の格差、女性管理職割合の低さ、男女の賃金格差も定着してしまったように見えます。その結果、育児、介護、家事といった生活領域のことが全て家族に押し付けられ、核家族が自分たちで何とかする、自己責任でやりくりするというのが、ただ一つの解のようにして、大きな圧力となってしまった。この状態を、私たちは教育・労働・家族がマイナスのレベルで均衡していると見ています。
 もちろん気付いてる人はたくさんいて、既に行動を始めていらっしゃいます。ワーキングマザーを支援しようとか、男女の賃金格差をなくそう、不妊治療、養子縁組の家庭を普及させよう、養育困難家庭を支援しよう、中小企業でもワーク・ライフ・バランスを実現しようなど、活動をしているNPOの方々はたくさんいらっしゃいます。サービスグラントを通して、私たちも出会いました。他にも男性の育休取得率を上げようとか、女性の管理職ネットワークをつくろうとか、若者投票率を上げよう、LGBTQ+のアライ(理解・支援する人)になろう、未来世代に投資しよう――いろいろな活動をしている方がいます。
 けれども、もう一つ問題なのが、このようなダイバーシティをそれぞれに求める声を政治的な勢力として集約する場所というのが、今のところないように見えることです。あるのはただ「伝統的家族」への支持のみで意気投合する保守、それしか選択肢がないように見え、これもまた日本社会の問題ではないかと思っています。
 この突破口はどこにあるんだろう、と話し合ううちに、目の前に立ちはだかるジェンダーギャップの解消に向けたアクションを取る必要があると強く思いました。その結果、今期、三つのプロジェクトが実際にスタートし、今日ここに報告会を迎える、ということを共有できればと思います。

 

嵯峨:ありがとうございます。SATは特に政治運動ではなく、私はNPOを応援する立場ということで関わっているのですが、NPOの現場で見つかってきていること、分かってきていることというのは、ものすごく、社会へのヒントになるのではと日々思っています。ただ社会全体を見渡すと、課題を抱えてる人の数は桁違いに多いという現状があって、それぞれのNPOだけではとても解決できない社会の大きな課題があると考えると、それをコミュニティレベルの解決策だけに頼っていては、社会に広がっていくにはすごく時間かかるし、改善に向かっていかないのではないかとも感じます。なので、まさにセクターを越えた協働が必要なのだと思います。

 

これからの日本に必要なこと
―社会科学と社会のより密接な“つながり”

 

嵯峨:先生方はこれからの日本社会において、何が必要だとお考えでしょうか。

 

橋本:SATの最初の1年間でさまざまなNPOの方々にインタビューをしたなかに、不妊治療を支援するFineというNPOがありました。そこで、Fineが独自に行った不妊治療に関するアンケート調査に基づいて、自民党が不妊治療対策を進めたという経緯があったのですが、研究者の間では不妊治療で悩んでいる人たちに対する研究がほとんどないのです。もしわれわれが何らかのかたちで、アカデミックな知見を活かした支援ができたならば、もっといい政策アイデアが出るだろうということは十分、考えられると思います。

 

嵯峨:社会科学と政策、あるいは、社会科学とNPOの現場をつないでいく。そうしたつながりがもっと必要なんじゃないかということですね。では、坂口先生はいかがでしょうか。

 

坂口:私も含め、今回ご参加いただいた先生方も、ご自身のもともとの専門よりも少し分野を広げて研究活動に取り組んでくださってると思います。研究者が業績を出していくと、どうしても本当に小さな差異を求めて、アカデミックな主張をしていくことにとらわれます。社会科学を、どうやったらより社会に役立つ、インパクトを持てる研究にできるのか、というのは課題です。

 

嵯峨:ありがとうございます。今、ビジネスパーソンの観点からいっても、社会やソーシャルに対して関心を持つ人が非常に増えていると思います。社会をどう捉えるかというときに、社会科学があることによって、全体像を捉えやすい、あるいは構造化して社会を捉えることができるという意味で、企業人の皆さんや、企業が社会に向けてアプローチをする上で、研究者の力には潜在的なものすごい力があるのではないでしょうか。
 そういった意味では、まだまだ社会で分かっていないこと、数字になっていないこと、スポットライトが当たり切ってないところが多いという状況かと思います。この後、報告される研究で出てきたアンケート調査を、今日お聞きになられている参加者の皆さんがご自分の会社に持ち帰って、職場で実践してみて母数を増やすだけでも、さらに知見が増えると思いますし、また今日のシンポジウムをヒントに、次の新しい調査研究が立ち上がっていくかもしれません。社会科学と社会のより密接な結び付きについても、今からでも遅くないので、新しい連携をもっと始めていきましょうと、今日はそんなきっかけになればと思います。

 

 

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