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[1000件達成記念]イベントレポート
弁護士・会計士に聞いた、「士業」専門家のプロボノによる
ソーシャル組織の基盤強化とは

サービスグラントは、職種・業種に限らず多くの専門家が広くNPO・地域団体にボードメンバーとして参画するような社会を目指したいと考えています。しかし一方で、そういった専門家が非営利組織に関わる意義や理想的な関わり方など、まだ知見として蓄積されていない部分も多くあります。
そこで、現在サービスグラントの組織基盤強化にお力をいただいている、公認会計士の池山 允浩さん、弁護士の鬼澤 秀昌さんへ、専門家がソーシャルな組織の基盤強化を行うことの意義やその具体的な内容について伺いました。
ぜひ、組織運営の参考としてご覧ください。

 

 

池山 允浩 氏 Mitsuhiro Ikeyama[監事]

サービスグラント監事:池山 允浩 氏

公認会計士 監査法人勤務

NPO法人Accountability for Change理事
慶應義塾大学理工学部機械工学科卒。公認会計士の社会的地位向上を使命に、一貫して監査業務に従事。幅広く社会課題に興味を持ち、子どもからシニアまで幸せに暮らせる社会づくりに貢献することを人生の目標とし、積極的にプロボノを行っている。2021年1月監事就任。

 

サービスグラント顧問弁護士:鬼澤 秀昌 氏

おにざわ法律事務所代表
BLP-Network代表

学生時代にSVP東京で初代学生インターンを経験。法律を学びながらNPOにも関心が強まり、教育系NPOの常勤職員として1年間勤務。弁護士としてTMI総合法律事務所での業務を開始した。その後2017年10月に独立。現在は、新公益連盟の監事やBLP-Networkの代表を務めるとともに、本業としてもNPOサポートを積極的に行っている。

 

 

弁護士・会計士に聞いた、
「士業」専門家のプロボノによる ソーシャル組織の基盤強化とは

 

 

サービスグラント事務局スタッフ(以下「Q」)
アメリカ法曹協会では、弁護士に対して最低年間50時間のプロボノ活動を提供することが奨励されており、自発的にプロボノ活動を行うような風土ができているようです。日本でも第二東京弁護士会で、年間10時間以上の「公益活動等」及びその事後申告が義務となるなど、徐々にプロボノが浸透してきているように思われます。


Q:実際、士業と言われる専門家の方々は、こういった義務化についてどう思われますか? また、業界では「プロボノ」の認知度はいかがでしょうか?

 

池山:

会計士業界では、まだプロボノの義務化はありません。専門家としての研修を毎年一定時間受けることは義務付けられていますが、そこにプロボノ活動を結び付けられるようにはなっていないのが現状です。
今、リモートワーク下でプロボノやボランティアをしたいという熱量は増えているかと思います。また「何のために働くのか」「人生で何を成し遂げたいのか」といった自分の信念や思いに向き合う機会が増えたことで、プロボノやボランティアと本業の境目があいまいになってきていると感じています。その際、本業とのバランスのとり方や、自分に何が提供できるのか不安を感じる人もいらっしゃると思いますが、会計士業界でもより多くの方がプロボノに自発的に参加できるようになっていける仕組みや風土ができていければと考えています。

 

鬼澤:
弁護士法第1条に「社会正義の実現を使命とし」とある通り、もともと弁護士の仕事は、公益のため、社会のための仕事でもあり、手弁当で訴訟をしたり、刑事弁護をしたりということを昔からしてきている背景があります。そのため、「公益活動等」の義務化によって、弁護士の「プロボノ」の認知が増加したというイメージはありません。
ただし、サービスグラントのように、NPO支援するというプロボノのやり方についてはまだ認知は低いのですが、企業法務の弁護士のプロボノの活発化に伴い、徐々に「こういったやり方もあるのか」と知られるようなってきているように思います。

 

Q:士業の専門家がプロボノをやるメリット、デメリットはありますか?

 

池山:
メリットしかないと思います。大きな会社のBtoBの仕事だとどうしても部分しか見えずに最終的な顧客の姿が見えづらかったりもしますが、「誰かの役に立っている」ことをより実感できるところに魅力を感じてプロボノをする会計士の声を多く聞きます。
またプロボノでは“専門性”の観点で、士業は一歩引いて見ることも大切だと思っています。
同じ専門性の人同士だと、ある程度の共通認識のもとで話を進めることができますが、プロボノでは相手にとっての立場や課題、大切にしている価値を考え、対話を重ねながら、より慎重に言葉を選ぶ必要がありますが、このような機会は、自身の視野を広げることにつながります。

 

鬼澤:
デメリットとして言われることは、マーケットを縮小させるのでは、ということです。「本来お金を頂くところを、無料でやることで仕事を奪うのでは」という声があります。
一方で、メリットもあります。NPOは課題解決のプロです。社会の潮流が分かり、学びになります。更に、普段の仕事では、依頼内容をオープンにできないので、他の事務所との連携はできませんが、プロボノでは依頼の性質上、他の事務所に所属する弁護士とチームを組んで行う事も多いので、他の事務所の弁護士のやり方を知ることが出来ます。今BLP-Networkで関わっているみなさんも、プロボノだからこそ連携しやすいという面もあると思います。

 

Q:NPOのニーズは?どんな困り事が多く寄せられますか?

 

池山:

会計士として受ける相談は、「予算や事業計画をどうしたらよいか」「監事を頼めないか」といったものが増えていると思います。

 

鬼澤:

BLP-Networkでは、個人情報の相談が多いですね。まずは持っている情報を棚卸してもらうところから始まります。それ以外ですと、利用規約、契約書作成、知的財産権…などの相談が多いです。特に、NPOでは、企業との提携等でNPO自身の持つ価値の源泉を取られると活動が難しくなる部分もあるので、連携を壊さないように柔軟に対応しつつもいかに重要なところを守れるか、そういったサポートを行います。
ガバナンスの分野では、ハラスメントの予防体制構築についての相談も多いです。その場合は、研修をさせていただいたり、規定を整理したりといったサポートを行っています。

 

Q:NPOとのやり取りの際に、ご自身の業務範囲について、認知ギャップを感じる事はありますか?

 

池山:
認知ギャップはありますが、対話で埋めるべきものですので、特に困ることではありません。団体の概要や活動内容、課題などについて詳細に聞いていくうちに、最初の依頼と違う部分での課題が見つかることもあります。対話の中で見つかることがある、これはまさに外部の専門家によるプロボノならではのことだと思います。
会計士の場合、“数字が出てくれば守備範囲”といったところで、専門領域はとても広いと私は考えています。ただ、何兆円規模の企業とNPOでは、課題感や求められていることが異なりますので、相手の立場を考えることはとても重要です。プロボノをやることで、大企業のクライアントではなかったような課題や解決策を模索する機会があり、プロボノを通じて勉強させていただいています。
また会計士の中でも監査人は、物事をニュートラルに考えるのに長けている人が多いと感じます。監査人は市場全体のことも考慮しクライアントの利益だけを追求してはいけないというマインドを保持する必要があります。目に見える関係性のみならず、内面的にも相手から独立した態度を保持することが求められるのです。
NPOへのプロボノでは、良い意味でも悪い意味でも代表の方を中心に熱量が高い方が多いがゆえに、時には客観的な指標を掲示して適切なブレーキをかけてあげる必要があります。数字から現実を読み取り、対話を重ねながら認知ギャップをなくすようアドバイスすることができると思います。

 

鬼澤:

認知ギャップはもちろんあると思います。例えば、法人を設立したいというご相談をいただくこともありますが、法人形態の選択という意味では確かに弁護士のサポートは有益なのですが、法人設立の手続などについては、司法書士の方が専門としているので、司法書士の方に頼んだ方がスムーズです。
契約書については、法的に訴訟になったときのための法令違反がないかのチェックなどはできますが、法人側の運用面の問題についての判断などまでは容易には出来ませんし、相談いただくときもその部分についてはNPOの側で確認いただく必要があります。このように、弁護士にできること、できないことの相談内容の切り分けは必要だと思います。
また、必要な知識が多岐にわたる案件を相談された時は、特定の弁護士の専門性だけでは対応できないこともあるため、様々な分野の弁護士で分担した方がよい場合もあります。BLP-Networkでは、様々な得意分野を持つ弁護士が所属しているので、そのような場合には複数名の弁護士で対応することもありますが、これはこのネットワークがないとできない事ですね。
ただし、こうした切り分けをして他の士業の先生や弁護士に割り振るということは弁護士は普段から行っていることですので、ギャップがあること自体は全く問題ありません。むしろ、弁護士に相談をしていく中で徐々に感覚をつかんでいただければよいのではないかと思います。

 

Q:NPO法人へ関与した経験の中で、大きなインパクトがあったと実感したことがあれば、教えてください。

 

池山:
自分自身へのインパクトについてコメントさせていただきます。初めてのプロボノは、インドの現地団体へ資金を配分するときに、どう管理し、報告してもらうかという会計ポリシーの策定をサポートするものでした。約半年ほど帆走したなかで、 “一緒につくりあげていくことのやりがい”を感じました。
本業でクライアントと接する場合は財務部門の部長、課長などが相手で、会計や財務報告など、ある程度の共通認識がありますが、実はそのことはまれで、団体の中の方でも、理念の理解度、前提知識の違いに想像よりも個人差があることが一般的であることを学びました。プロボノを行うなかでそのことに気づけたこと、個人個人との対話が重要ということに改めて気づいたことが印象的でした。

 

鬼澤:
NPOへの財政的なインパクトということですと、紛争への対応や情報漏洩の予防・事故が起きたときの対応が適切にできたことで信頼の失墜を抑えることができたと感じる経験はあります。NPOに限った話ではありませんが、問題によっては、上手くいかないと財政的なインパクトは大きくなってしまいます。
自分は基本的にNPOからであっても有償で相談を受けていることもあり、無償で「プロボノ」として行う意味、というのをよく考えます。自分が「プロボノに適している」と判断する基準は以下の3つです。
1) 有償で実施した場合の金額、2)団体事務局だけでも時間をかけて出来ることか、3)単発的な関与でも影響力を持続することができるか、これがプロボノをやるうえでのポイントです。
私が社会的なインパクトと言う意味で印象に残っているのは、いずれもサービスグラントとBLP-Networkの有志のメンバーで連携してサポートさせていただいた「全国フードバンク推進協議会」や「NPO法人 Fine」へのサポートプロジェクトです。

いずれのプロジェクトでも、海外の法制度も含めてリサーチをしているので、有償で行えば高額な報酬が発生するのは間違いないですし、NPOだけではその情報はたどり着けなかったと思います。また、「全国フードバンク推進協議会」のプロジェクトは、資料を一度つくれば、食品ロス削減法案のロビー活用でも継続的に活用できるなど、長期的に見ても影響力を持続することができました。「NPO法人 Fine」のプロジェクトでも制度設計にあたって参考となる基礎資料として活用できるので、社会に対しての大きな影響力を打ち出す基礎を提供できたと思います。
蛇足ですが、なお先ほど述べた3つの基準はBLP-Networkでの案件を受けるか否かの基準というわけではないのでご注意ください。

 

Q:それぞれの立場で、今後どのような公益活動をしてきたいと考えていますか?

 

池山:
私は、環境問題に興味があります。世界の潮流では循環型経済が注目を浴びていますが、日本にはリサイクルが根付いているため、循環型経済を日本でやろうとする際にはそれぞれの地域の文化や文脈を理解して行うことが重要と感じています。つまり、グローバルの潮流をいかにローカルに還元するかの翻訳能力が重要になってくると考えます。
サービスグラントに関与させていただくことで、少しでも専門家とNPOをつなぐ架け橋となり、コラボレーションを促進していきたいと思っています。

 

鬼澤:
弁護士としてのプロボノの形として、直接個人を支援したり、NPO等を通じて間接的に支援をしたり、方法は様々あります。そして、直接的な支援であれ、間接的な支援であれ、制度への改善につなげていくことは必要です。弁護士が取り得る課題解決の手段には、この2つのルートがあるのを認識しておくと、サービスグラントでも支援の仕方や弁護士との連携の仕方について、考えやすくなるのではと思います。
弁護士業界の中では、NPO支援等の間接サポートは弁護士の中でもまだ浸透していない部分ですので、そこを発展させていくことで、NPOと弁護士の連携も強化され、制度改正などもより活発にできるようになるのではないか思っているところです。したがって、今後は、自分が積極的にNPOに関わるだけでなく、自分が代表しているBLP-Networkや他の中間支援団体との連携等を通じて、弁護士やNPOに対してそのような弁護士・NPOの連携の機会をできだけ多く提供していければと思っています。

 

サービスグラント事務局スタッフ:

池山さん、鬼澤さん、貴重なお話しをありがとうございました。

 


 

※上記レポートは、サービスグラント1000プロジェクト達成特別企画の一環として、サービスグラント事務局スタッフが、専門家がソーシャルな組織の基盤強化を行うことの意義やその具体的な内容について学びを得ることを目的として2021年月4月に行ったインタビューをもとにしています。