レポート(後編):トークイベント
『障害者スポーツ×プロボノ』ひろがる、つながる、未来へ
〜東京都 障害者スポーツ団体基盤強化事業〜
レポート(後編):トークイベント
『障害者スポーツ×プロボノ』ひろがる、つながる、未来へ
〜東京都 障害者スポーツ団体基盤強化事業〜
2019年3月6日(水)、野村コンファレンスプラザ日本橋にて、トークイベント「障害者スポーツ×プロボノ ひろがる、つながる、未来へ 〜東京都 障害者スポーツ団体基盤強化事業〜」を開催しました。当日はゲストに陸上男子400mハードルの日本記録保持者(※)でもある為末大さんをお招きしました。
第1部では、障害者スポーツ団体に対する今年度のプロボノプロジェクトの取り組みについて紹介。実際に参加した障害者スポーツ団体と、プロボノワーカーの皆さんにご登壇いただき、それぞれの立場から、プロジェクトを振り返っていただきました。
第2部では、為末さんが現在の活動を通して感じている、障害者スポーツの現状と課題などについてのトークセッションのほか、第1部でご登壇いただいた障害者スポーツ団体やプロボノワーカーの方に対する、会場からの質疑応答を行いました。
関係者を含め約140名の方にご参加いただき、貴重な知見が数多く飛び出すこととなったトークイベント当日の様子を以下にお届けします。
第2部 トークライブ
- (1) 為末大さんとのトークセッション
- (2) 来場者からの質問と回答
第2部 トークライブ
国を超えた活動や分野を超えた専門家とのネットワークにも積極的に取り組んでいらっしゃる為末さん。プロボノに対する思いに始まり、ご自身のプロジェクトの一端の紹介や、関わりを持たれている障害者スポーツへの思い、期待など、2020年以降に向けて現実的なヒントを伺いました。
[ゲスト] 為末大さん
1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で、日本人として初めてメダルを獲得。3度のオリンピックに出場。男子400mハードルの日本記録保持者(※2019年4月現在)。現在は“Sports×Technology”に関するプロジェクトを行う株式会社Deportare Partnersの代表および、「新豊洲Brilliaランニングスタジアム」館長を務める。
[聞き手] 認定NPO法人サービスグラント 代表理事 嵯峨生馬
■為末大さんとのトークセッション
「プロボノ」のリアルな声を聞いて
第一部での事例紹介を聞いて、プロボノは、利用する団体側に圧倒的な旨みがあると思う一方で、支援を行うプロボノワーカーのメリットについて考えてみたという為末さん。
「AIが台頭するこれからの時代、“自分に何ができるか”を知る上でプロボノは最適だ」といいます。
企業の中では非効率で実現が難しく、また副業などで自分を試すのはなかなか難しいのが現状。
そんな中、「例えばプロボノでプロジェクトマネジメントを担当するということは、企業でいうところのCOOクラスの権限を持ってプロジェクトを運営するようなものなのではないか」と為末さん。
「プロボノは、ビジネスの世界じゃないからこそできる、非常に良い装置ではないかと思いました。ご飯を食べるための仕事と、魂を磨くための仕事の、二つのバランスが取れていないと、何か居心地が悪いと思うんですね。これからの時代、そのバランスは社会の中で取るのではなく、個人の人生の中で取っていくようになるのではないでしょうか。そこにプロボノの意義があるのではないかと、魅力に感じています」と話していただきました。
現在の取り組みについて
5年ほど前に、ボランティアでブータン政府のホームページを手がけている友人に誘われたのをきっかけに、ブータンを訪れた為末さん。そこでブータンの陸上競技連盟の会長に出会ったことがきっかけで、ブータンをはじめ、ネパール、ラオス、スリランカ、カンボジアなどの国で「陸上クリニック」を開催するようになりました。しかし短期間のクリニックで現状を改善していく難しさと、指導者育成の課題に直面。現在では各国の選手を日本に招き、合同のトレーニングキャンプを開催しています。
「彼らにみっちりと2週間指導をして、最初に指導した選手たちが10年くらいすれば、引退してコーチになっている確率が高い。それを僕の人生の中で3周くらいはできるかなと。その頃には、各国に日本発のスポーツ文化が結構根付いて、その中から世界で勝負できる選手が出てくるのではないかという壮大な仮説のもとに活動しています(笑)」
スポーツとテクノロジーの掛け合わせから生まれる可能性とは
トレーニングキャンプでは、パラリンピックを目指す選手も参加。開催施設では、スポーツとテクノロジーの掛け合わせの最たるものでもある、義足を自由に試すことができるといいます。
「今回、プロボノに参加された人たちもテクノロジーの介入の余地を感じられたのではないかと思います。コミュニケーション一つを取っても、生産性が上がると思うんですよね。
スポーツの世界では、オノマトペで指導することが多いのですが、最近は聴覚障害の選手に対して、オノマトペを振動に変えて伝えることができる機械が登場するなど、スポーツとテクノロジーが融合することでの可能性はとても感じています」
2020年度に向けて、障害者スポーツの注目が高まっている中、
障害者スポーツに対する思いや期待は?
障害の有無で、支える側、支えられる側という決まった関係に見られがちだが、本当は状況に応じて、誰が誰を支えるかは変わると思うという為末さん。
「例えば全盲の人と車椅子の人が一緒に出かけたら、全盲の人が車椅子を押して、車椅子の人が方向を教える。スペイン語を話せる車椅子の選手は、スペインに行ったら、スペイン語の分からないわれわれを支えてくれる側なんですよ。だから、そういった決まった役割が溶けていって、“これからの社会”の模範となっていく一番の象徴がパラリンピックであり、障害者スポーツにあるのではないかと思っています」
■来場者からの質疑応答
第2部の後半は、第1部の登壇者も加わり、来場のみなさまから寄せられた質問について、質疑応答の時間を設けました。
[登壇者]
東京都障害者水泳連盟 会長 井上實さん・(プロボノ)工藤麻衣子さん
東京都グランドソフトボール連盟 広報担当 飯塚史朗さん・(プロボノ)平野麻絵さん
東京都IDボウリング連盟 石飛了一さん・(プロボノ)塚原宏樹さん
東京都障害者スポーツ協会 経営企画部 企画調整課 課長 大越克行さん・(プロボノ)伊藤直樹さん
質問:数あるプロボノの中で、障害者スポーツへの支援を選んだ理由は?
伊藤さん:プロボノプロジェクトとしてたくさん案件がある中で、なぜ障害者スポーツという世界を選んだかというと、単純に自分がスポーツが好きだからです。
マーケティングに興味があって、その世界に触れたいと思って始めることを決めたプロボノですが、やり始めて、もし自分に合わなかったらモチベーションのキープが大変だと思ったんです。だから、自分が好きなジャンルとしてスポーツというところから選びました。
工藤さん:これまでは、ボランティアで何かできないかなと思うことがあっても、どうやって関わっていけばいいのか分かりませんでした。でも、サービスグラントのプロボノを知り、障害者スポーツ団体への支援プロジェクトがあるのを見て、深く知ってみるチャンスだと思い、このプロジェクトを選びました。
質問:プロボノのチーム内で目指す方向がバラバラになった場合、チーム内のリーダー的な人の意見に引きずり込まれる事はないでしょうか?
塚原さん:バラバラになることはありませんでした。課題の最終地点というのは共有できているので、一つひとつの案件で意見が割れることは多々ありましたが、目指す方向がずれるということはなかったですね。誰か一人が全員を引っ張るということもなく、全員が自然とそろって前に向かっているな、という感じでした。
平野さん:団体から出された課題もありますし、もともとみんな、ボランティアで貢献したいという共通の意思があるので、目指す方向がずれるというのは意外とないですね。お互いにちょっとした進め方の違いが発生したとしても、プロジェクトマネジャーとしてチーム内のすれ違いを感じたら、「連盟にとって一番良いことは何だっけ?」ということに立ち戻ると、大概が良い方向に向かっていきました。
為末さん:人事権などのない状況で、課題解決までやり遂げる難易度を考えてみると(こういったチーム内の関係性を実現するのは)すごいことですよね。
質問:パンフレットの印刷代など、経費はどこから出るのですか?
嵯峨:プロボノで支援するのは、基本的に、スキルや知恵、アイディアやデザインなどです。
印刷や配布は、もともとプロボノがなくても団体で印刷するものなので、団体のご負担となります。
質問:継続支援はしてもらえるのでしょうか。
嵯峨:基本的に、成果物を納品した時点でプロジェクトは終了し、チームは解散します。
場合によっては、個人的に団体を支援するというケースもあるかもしれませんが、出来上がったパンフレットやホームページなどの成果物は残るので、結果的にそれが継続的な支援として、その後の団体の情報発信の礎になっていくことになります。
質問:団体の方は、今回受けた支援以外にどんな支援があったら良いと思いますか?
石飛さん:東京都IDボウリング連盟としては、大会を一緒に運営し、同じ喜びや思いを共有できるメンバーを増やしたいです。また、金銭的な支援も増やしていきたいと思っています。
為末さん:資金を獲得してくるプロボノっていうのが、全ての団体に共通して求められるプロボノなのかもしれないですね。
大越さん:東京都障害者スポーツ協会ではチラシを作る機会が多いのですが、私たちにはデザインスキルがないので、デザインをやっていただけるような支援はありがたいです。
為末さん:カメラの世界的な大企業で、写真のプロボノをしたいと言っているのを聞いたことがあります。デザインだけではなく、そういうところにアプローチしてみるのも良いかもしれませんね。
質問:2020年以降も、障害者や健常者といった区別なく、スポーツを楽しめる社会をかなえるのが理想的ですが、そのための施策について、どのようにお考えですか?
飯塚さん:グランドソフトボールという競技は、障害者と健常者が一緒にできる競技です。障害のあるなしにかかわらず、私たちの団体としては、一人でも多くの人に興味を持っていただけるように、努力していきたいと思っています。
大越さん:東京都障害者スポーツ協会では、「東京CUP卓球大会」という障害者も健常者もエントリーできる大会を開催していますが、そういった事業をどんどん増やしていって、障害者や健常者といった区別なくスポーツを楽しめる社会の実現に一歩ずつ近づけていきたいです。
為末さんからの質問:どんな人にプロボノを勧めたいですか?
工藤さん:人に関わっていきたいという思い、人が好きであれば、スキルなどの自信がなくても、何か成し遂げられる場ではないかと思います。
為末さんからの質問:2020年に向けて、プロボノワーカーたちのモチベーションをくすぐるような課題案があったら教えてください。
井上さん:障害者スポーツの観客動員数をどう増やすか、という事へのプロボノでの解決に期待します。
為末さん:競技場を観客で一杯にするというプロジェクトですね。面白いですよね。
今日のイベント全体を振り返って
嵯峨:最後に、今日のイベントを振り返って為末さんからコメントを頂けますでしょうか。
為末さん:今日は、本当に素晴らしいお話をたくさん聞かせてもらえました。
こういうマッチングが続いていくといいなと思います。
実はロンドンオリンピックの開催から3年後に現地を訪れたことがあるのですが、オリンピック後に何が変わったか、と車椅子の人に尋ねると、階段などの前で困っているときに、車椅子を持ち上げてくれる人の確率がすごく上がったという答えでした。
バリアフリーなどのハードでも、車椅子などの道具の進化でもなく、人の意識が変わったそうなんです。
また、オリンピックで活躍した“コミュニティ”も残ったといいます。人生でもう一つ仲間が増えるって幸せじゃないですか。プロボノへの参加動機が、そんなコミュニティに、新たな友達を見つけにいく、というのでも良いと思うんです。そんな感じに、プロボノが流行るといいな、と思いますね。