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プロボノによる行政協働の多様化・団体支援手法の世界的進化

社会課題は無数に存在し、その解決に向き合う数多くのNPOや地域団体が日々活動を続けています。社会的、公共的な目的のために、仕事の経験やスキルを活かして行う「プロボノ」は、そういったNPOや地域団体の組織基盤強化に、着実な成果をもたらしてきました。

世界各国の事例を見ると、政策の一環としてプロボノを位置づけ、社会的インパクトを創出している取り組みや、デジタル技術を活用し、非営利組織の基盤強化をより効果的・効率的に支援する手法が数多く生み出されています。

 

会場:渋谷商工会館 2階大ホール

会場:渋谷商工会館 2階大ホール

 

本レポートでは、2023年12月1日(金) に開催した、「グローバル・プロボノサミットTOKYO 2023」行政・中間支援セミナーでのプレゼンテーションをもとに、行政機関や中間支援組織がプロボノと連携することで、社会課題の解決にどう結び付けていくことができるのか、その連携手法についてのヒントを各国の事例からご紹介します。

目次

 

 

テーマ 1 多様化する行政機関との協働

 

ボランティア・マネジメントの強化とプロボノ参加促進

Erlinda Heng氏(シンガポール・National Council of Social Service)

 

Erlinda Heng氏(シンガポール・Nacional Council of Social Service)

 

National Council of Social Service(以下、NCSS)は、シンガポール政府直轄の組織で、500を超える社会サービス基幹(SAA)のリーダーとして、SAAに対し、活動方針の策定や指導などを行っています。
今、シンガポールでは「SG Cares」という寄付運動が行われており、インクルーシブで思いやりのある社会にするため、ボランティア活動を積極的に推進しています。
同時に、NPOの組織の力を高めるため、ボランティア・マネジメントの実践と強化のためのチームを組成し、トレーニングを通じた能力向上を目指しています。ボランティアマネジャーを一同に集め、データを活用してベストプラクティスを共有し、コミュニケーションを推進したりしています。

ボランティアには3種あり、一度きりのイベント的なボランティア、受益者とかかわるサービスベースのボランティア、3つめがスキルベースのプロボノです。NCSSの調査によると、非営利組織に資金提供を行っている企業の70%が、スキルベースのボランティア(プロボノ)に強い関心を持っていることが分かりました。これを受けて、2021年よりスキルベースのボランティアに関するデータを集めると同時に、ボランティア活動のノウハウを学びました。
そして、プロボノによるNPOへのリソース提供の実績を持つエンパクト(Empact)と共に、NPOに向けたスキルベースのボランティア活動を効果的に実施するためのオープンソースのツールキットを開発しました。プロボノのスコープを設計したり、活動のマネジメントに役立てたりすることが出来るものです。実際に、これらを活用して多数の実績が生まれています。このツールによって、NPOがプロボノ協働に対し、より積極的に取り組んでいくようになることを願っています。

他にも、私たちは、NPOがプロボノ活動に興味を持つ人と出会えるきっかけとなるカンファレンスの開催のほか、さまざまな取り組みを行ってきました。ボランティア・マネジメントに関する出版物を発行し、ボランティアの役割やどのような効果が測定できるのかについて紹介しています。ボランティア・マネジメント関係者が集まり、ボランティア・マネジメントについて話す、バーチャルネットワークなども推進しています。
これらはウェブサイトよりダウンロードしてご覧頂くことが出来ますので、ぜひご活用ください。

 

The Skills-Based Volunteerism (SBV) Toolkit – NCSS

Resource for Volunteer Managers – NCSS

 

行政とプロボノ中間支援組織の協働

Fredrick Sadia 氏(ケニア・VIO Society)

 

Fredrick Sadia 氏(ケニア・VIO Society)
政府とプロボノ団体のパートナーシップは、戦略的なアライアンスです。戦略的アライアンスを持って社会課題に取り組むことで、地域の発展に対し、共通の目標を持って進んでいくことが出来ます。そして、目的を達成するには、すべての能力を活かしていく必要があります。スキルやリソースを使い、一つのインパクトを目指していきます。

 

ケニアでは、政府が、NPOやプロボノの中間支援組織との協働に対して、より意欲的になっているという流れがあります。私たちは、これまでの活動経験を踏まえて、行政、NGO、プロボノ中間支援組織が協働するにあたり、大切だと感じていることがあります。
一つ目は、互いの強みを組み合わせ、効率よく取り組むことで、相乗効果を生み出すことです。二つ目は、問題解決のための資源を提供し合うことです。三つ目は、アイデアを出しあい、共創していくことです。

また、成功のためには、明確な目標設定、コミットメント、持続可能な形で進めていくこと、関係者を包摂しながら解決に向けて進めていくことも重要です。

アフリカにおいて特に重要な問題は、農業と食糧安全保障です。また、気候変動に対し、CO2排出削減に取り組んだり、電力供給網が行き届いていない人たちに電力へのアクセスを改善することも必要です。持続可能な発展に対し、健康と教育は無視できないものですし、科学やイノベーション、テクノロジーについては日本のJICAとの連携も行われています。ジェンダーと女性のエンパワメントはコミュニティの発展につながると感じています。近年ルワンダ政府の中でリーダーシップをとる女性が増えていることはとても喜ばしく感じています。

こういった課題解決を推進するため、ケニア政府は政策的・法的なフレームワークをつくることを共通のゴールとしています。またこれに向けて、プロボノやボランティア活動を強化する環境づくりも行われています。取り組みは、全国的に進んでおり、今期の議会ではこれに関連した法案を提出し、次の会期で可決されることを目指しています。
ケニア政府の政策づくりにあたっては、NPOや私たちのような中間支援組織のサポートは重要なものとなっています。

私は高校時代に日本人のボランティアの先生に出会い、責任意識を持つことと、相互扶助の考え方を学びました。そういった経験を持って今、プロボノネットワークのつながりによって日本にいることを嬉しく思います。

 

 

超高齢社会に向けた長期的協働事例にみる行政とプロボノの関わり

嵯峨 生馬(日本・サービスグラント)

 

嵯峨 生馬(日本・サービスグラント)

 

日本は超高齢社会を迎え「2025年問題」と言われる年に間もなく突入しようとしています。「2025年問題」は、人口ボリュームの大きいいわゆる“団塊の世代”が75歳以上の後期高齢者になることにより、介護や医療のニーズが高まる半面、働き手が減ることで、より多くの支援のニーズが出てくるという問題です。

サービスグラントでは、この課題に対し、東京都とともに、「東京ホームタウンプロジェクト」という取り組みを推進してきました。介護予防や住民同士の身近な助け合いの重要度が高まっている一方で、東京は、人と人のつながりが少ないと言われてきました。一方で多く存在する、活発な企業とその人材、専門知識を持つ人々の力を活かし、地域の団体を応援しようというプロジェクトです。

東京ホームタウンプロジェクトは東京都との協働事業ですが、今年で9年目を迎え、安定して団体を支援することが出来ています。

私は、行政が行う協働には3つのタイプがあると考えています。一つ目は、住民が行政に対して提案をし、行政が実行主体となり実現するもの。二つ目は、NPO法人等が行政と契約して実行をするもの。三つ目が、行政と地域のNPO、市民などが共通目的を共有し、ともに進めていくものです。
私たちサービスグラントは、三つ目に紹介した、行政が地域のNPOや市民と一緒に社会課題の解決に向けて協働するためのプラットフォームを提供しています。
この関わり方は、行政における協働が持続している一つの理由ではないかと考えています。

行政にもそれぞれ政策課題があり、目標があります。地域づくり、住民参加、市民のボランタリーな活動を支援するためには、人々がコラボレーションできるような環境づくりが非常に重要になりますが、行政の従来の活動プロセスでは実現が難しい面も多くあります。そこに対して、私たちのような中間支援組織の力を提供することができれば、と考えています。

 

 

テーマ 2 進化する団体の基盤強化支援手法

 

 

プロボノ活動拡大のための戦略とプログラム開発

Vicente Gerlach 氏(チリ・Fundación Trascender)

 

Vicente Gerlach 氏(チリ・Fundación Trascender)

 

我々トラスセンデール財団は、2001年に設立し、今はチリ国内で3つの拠点を構えています。1,373の団体にコンサルティングを提供し、プロボノコンサルタントは現在1,322名。NPOからは満足度98%、プロボノコンサルタントからは96%の満足度を得ています。
私たちが提供するクラウド上で、NPOのニーズに対しプロボノコンサルタントの手が上がるとマッチングが成立し、プロジェクトもバーチャル上で行われます。財団のスタッフからも一人プロジェクトに加わり、進行を見守っています。

私たちはNPOへ無料でのサポートをしていますが、活動費は企業とのコラボレーションにおける収益から捻出しています。企業においてもESG指標やガバナンス指標は重要になっているなか、企業のソーシャルな目標の達成をサポートし、サステナブルレポートの作成支援等を行うことで協力体制をとっています。

私たちは、「Index FT」という、NPOの活動の自己評価のための7つのインパクト指標を持っています。私たちは、すべてのNPOに対して、1~2時間のワークショップを実施し、各団体の指標を整理し、評価し、コンサルティングにあたっての把握に活用しています。NPOにとっては自身の強みの認識にもつながります。
組織力を強化するためのコンサルティングのプロセスには2~3年かかりますが、プロセスを明確にすることで、いくつかの取り組みを平行して支援を進められ、有益な活動となります。また、支援中には、個別のインパクトを評価するワークショップ「Fixed offer」を6-12カ月ごとに行っています。継続性やナレッジ化の状況から、結果とインパクトを確認します。75%のNPOが、支援の直後によい結果が見えたと回答し、90%がより長期的な視点でインパクトを達成できたと評価しています。

プロボノコンサルタントは有償ではなく、受益者に満足いただくことを求めているため、コミュニティ構築などの戦略が重要です。プロボノ間で、またバーチャルの場で経験や知見を共有し、満足できる環境をつくるコミュニティ構築は重要な課題となっています。
コミュニティをつくり、チームの一員となり連携しすること、信頼関係を構築すること、すべてを評価測定していくことが大切です。

 

 

非営利組織のキャパシティビルディング手法の進化

Jean Lau(香港・Asian Charity Services)

 

Jia Chuan Kwok 氏(アメリカ/シンガポール・Conjunct Consulting)
私たちは2,000人のプロボノコンサルタントを抱えていますが、その活動の中で考えているキャパシティビルディング(組織力向上)の手法について、ご紹介をします。
ここ数年だけでもいくつかの社会的なシフトがありました。スキルとしては、デジタルや創造性、エンゲージメントが求められるようになりました。文化的には、人々はより社会的に活動すること、共創力、パーソナライズ、時間制約の考え方が変化しました。フィランソロピーの変化として、短期間で目に見える結果を出すことがより求められるようになりました。コロナの影響による社会的な転換はご存じの通りですが、その前から香港では社会的な抗議活動があり、分断をもたらしています。一方で技術的な進化も進んでいます。

マッキンゼーのデータによると、2030年には、テクノロジー、社会性と感情性、認知のスキルがより大きく重要になると言われています。
カルチャー・シフトの中、世代による強みの違いもあります。ジェネレーションαは共創力、ジェネレーションXは、参加・実行型、そのほか、インタラクティブだったりコラボレーターだったりそれぞれのかたちがあります。これらはプロボノコンサルタントと効果的に活動できるヒントになります。
Drothy A. Johnson Centerによるフィランソロピー・シフトに関する最新のデータでは、共同出資の台頭、キャパシティビルディングの決定者の再考、NPOの説明責任に対しての効果的なマネジメントが求められるようになっているということが強調されています。
個人や組織に関するトピックなども含めてマッピングをすると、人的資本、社会的資本、リソース上の資本に分けられます。
私たちは、個人・組織・コミュニティに対して、これらのフレームワークと、人的・社会的・リソース的資本を活用し、新しいプロジェクトを生み出しています。それらを、私たちは、新しいナラティブ(物語)と呼び、推進しています。

 

 

デジタル活用による支援手法の進化と可能性

Jia Chuan Kwok 氏(アメリカ/シンガポール・Conjunct Consulting)

 

Jean Lau(香港・Asian Charity Services)
コンジャンクトコンサルティングは、拠点をシンガポールからニューヨークに変えて、現在活動をしています。国境を超え、特にプロボノにおけるデジタル技術の新しい機会を見出すために活動領域を広げています。

世界はデジタル化が進んでいますが、取り組むべき課題は変わりません。人材を引き込み、行動を促し、可能性を活かし、広げていく。社会において貢献するために発展していくことを望んでいます。その可能性を新しい技術の活用によって、広げたいと考えています。

テクノロジーは成果をもたらすための手段であり、目指すべきは社会的なインパクトと NPOの活動に関わる人たちのポジティブな変化です。コンジャンクトでは主に3つの軸で取り組んでいます。
一つ目は、プロボノ参加者に対してオープンソースの無料ツールを紹介し、活動におけるプロセスの効率化のために活用してもらっています。二つ目は、デジタルワークショップ等のバーチャル体験を提供し、新たな共創の可能性を見いだすことです。
そして、三つ目は、AI モデルにおけるバイアスの防止です。技術会社と協業しながら、公平な形でAIを導入できるよう取り組むとともに、NPOがAIに対する知見を深め、自らの活用の可能性を把握できるよう支援しています。

マレーシアでは、デジタルを活用して、学校でのコミュニケーションの改善に貢献した事例があります。手書きでの保護者とのやりとりをデジタル化し、効果的なコミュニケーションができるようになりました。シンガポールでは、ソーシャルセクターにおいて、ケースマネージャーの活動をバーチャルで展開することで、普段はアクセスできない人でも関われるような取り組みを実践しました。我々もこのテクノロジーを 啓発活動におけるマーケティングで活用しています。

私たちには、3つの学びがありました。トレーニングやメンタリングにおけるデジタル技術の可能性は広く、国境も超えられること。NPOなどが新しい技術を活用し、それを生き渡らせるには、辛抱強く、導入・実践・活用までしっかりとガイドすることが必要です。

デジタル技術が広がる一方で、取り残される人も多く出ています。そういった人々でも、しっかり使える環境を整えるため、私たちは、引き続きデジタルの公平性に対して取り組み、対話をしながら様々な活動を進めていきたいと考えています。

 

 

シブヤ・スコーパソン

 

行政・中間支援セミナー同会場にて開催

全体進行:Keng Hwee Yap氏(シンガポール・empact)

 

Keng Hwee Yap氏(シンガポール・empact)

 

シンガポールでは、ソーシャルセクターのボランティア・マネジメント力向上を目指し、社会サービスを主幹する国の機関National Council of Social Service(NCSS)と、プロボノ団体であるempactが協働で「The Skills-Based Volunteerism Toolkit(組織基盤強化のためのプロボノツールキット)」を開発し、シンガポール国内のNPOが活用しています。初めてプロボノプロジェクトを行う人でもプロジェクト設計がしやすくなるものです。
通常3日間を要し、独自のトレーニングプログラムですが、シブヤ・スコーパソンではこのツールをもとに、約90分で導入編として実施します。

NPOは多数の課題を抱えていることがありますが、すべての課題が重要とはかぎりません。また、必ずしもプロボノプロジェクトがマッチするとは限りません。プロボノプロジェクトを実施するためのスコープ(範囲)の設定に必要なことは、NPOの課題に対して、プロボノプロジェクトとしての適性、どのような支援が必要か、どのようなスキルを求めているかを明確にすることです。組織が何をやりたいか、何を得たいのかを考えることに時間をかけ、明らかにすることが大切です。

スコープ設定は簡単なことではなく、繰り返し考え、実践していくことが大切です。そして、プロボノプロジェクトを実施するにあたっては、目的や内容が、明確であればあるほどよいと言えます。

シブヤ・スコーパソン

 

参加団体

NPO法人そるな/NPO法人フリースクールまいまい/NPO法人日本語教育ネットワーク/NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ/東中野五丁目小滝町会

 

…実際のワークでは、シンガポールで活用されているツールキットをもとにした、マトリックスや、YES、NOを選択するデジタルキットを使って、課題とニーズを評価し、プロボノでインパクトをもたらすことができる優先的な課題と、そうでないものを確認し、実際にスコープを設定していきました。
これらのワークを通し、参加団体は、プロボノへの支援ニーズ特定とプロジェクト適性評価の方法、そして、プロボノプロジェクトの設定方法を学びました。

 

シブヤ・スコーパソン

 

 

 


 

「グローバル・プロボノサミットTOKYO 2023」その他のレポート

 

 

※「グローバル・プロボノサミットTOKYO 2023 行政・中間支援セミナー」
 2023年 12月 1日(金)開催会場:渋谷商工会館
 主催:認定NPO法人 サービスグラント
 共催:グローバル・プロボノネットワーク
 特別協力:BMW Foundation Herbert Quandt
 後援:渋谷区