地域の課題解決プロボノプロジェクトは、一般の社会人が仕事の経験やスキルを活かす「プロボノ」で、東京都内の町会・自治会を支援するプロジェクトです。 2022年度も、地域の情報発信に取り組みたい町会・自治会の皆さんや、組織や運営の課題を解決したい町会・自治会の皆さんと、プロボノワーカーの皆さんが、一緒にプロジェクトに取り組んできました。また、本事業の2017年開始以来、支援を受けた町会・自治会は96団体にのぼり、成果物を活用いただいている町会・自治会の皆さんも増えてきました。
そこで、プロジェクトの成果や町会・自治会活動に起きた変化を振り返り、広く共有する「成果報告会」を開催しました。今年度のプロジェクト事例とともに、支援を受けた後に成果物を活用いただき、活動を前に進めていらっしゃる事例も合わせてご紹介しました。
当日は、町会・自治会所属の方々を中心に、まちづくりや町会・自治会の活動に関心を持つプロボノワーカーはじめ企業・団体・個人の方等、多様な背景を持った約91名の方にご参加・ご視聴いただきました。
【開催概要】
- 2023(令和5)年3月11日(土)14時00分~16時00分
- 参加方法:以下のいずれかを選択
- オンライン(Zoomウェビナー、YouTubeいずれか)での視聴
- 御茶ノ水会場への来場
【当日プログラム(レポート目次)】
第1部:インターネットを活用した情報発信にチャレンジした取り組みのご紹介
「実践講座」を通じてホームページ等を作成し、情報発信に取り組んだ団体による成果報告
ホームページ作成|檜町町会(港区)[2022年度実践講座]
ホームページ公開後の運用継続|東郷町会(中野区)[2018年度実践講座(旧称:伴走支援コース 情報発信講座)]
第2部: 地域ごとの課題解決への取り組みのご紹介
活動の後継や活性化など各地域の課題解決に「個別支援」で取り組んだ団体による成果報告
自主防災組織の活動マニュアル作成|中十条三丁目町会(北区)[2022年度個別支援]
イベント企画立案・フロー整理に基づく防災イベントの開催|南新井自治会(日野市)[2021年度個別支援]
第1部:インターネットを活用した情報発信にチャレンジした取り組みのご紹介
「実践講座」を通じてホームページ等を作成し、情報発信に取り組んだ団体による成果報告
「実践講座」とは、事務局が開催する複数回の集合型講座への参加を通じて、プロボノワーカーのサポートを得ながら、町会・自治会の方ご自身が手を動かして、成果物を作成するものです。本年度の実践講座は、インターネットを通じた情報発信に取り組みたいという町会・自治会の方々を対象とした内容でした。それぞれの町会・自治会のホームページを作成する講座に、4つの町会・自治会が参加しました。
今年度支援を受けた1町会と、成果物の作成をサポートしたプロボノワーカーにお話いただいたほか、過去に支援を受け、その後ホームページの運用を続けている1町会からもお話いただきました。
町会・自治会/登壇者名 | お話のテーマ |
檜町町会(港区) 光田 至秀氏 | ホームページ作成 |
プロボノワーカー 伊藤 理絵氏 | |
東郷町会(中野区) 熊谷 英男氏 | ホームページ公開後の運用継続 |
※以下、檜町=檜町町会 光田氏、プロボノ伊藤=プロボノワーカー伊藤氏、●=事務局(進行役)
- 制作されたホームページのご紹介 (こだわりポイント、工夫点、苦労したところ等)をお願いします。
檜町: 都心の町会がどんな活動をしているのか、皆さんに幅広く知っていただくことが最終的な目的です。町会内の住民、また近隣の町会や住民など、広い地域の人に町に関心を持っていただきたい。そのために、どんな活動をしているかを視点に考えました。
工夫したところは、江戸時代から現在までの地図を活用して、町会のエリアを載せたところです。どういうふうに興味を持っていただくかを考えて、町会エリアの歴史にポイントをおいて、町の遍歴を載せるところからスタートしました。
(ホームページは2023年3月11日現在、公開に向けて準備中です。)
- ホームページを作成しようと思ったきっかけ、実践講座に参加しようと思った理由を教えてください。
檜町: 当町会でも、高齢化が進んでおります。次世代への継承が途切れ始めているのです。町会の倉庫にもたくさん資料がありました。そういった資料を載せることで、町の継承を、意味を、次世代の方に伝えていきたい。そういうベースになるのではないかと思っています。今までの回覧板や掲示板では一部の人しか情報が伝わらず、新しい伝達手段が必要になってきたと思っております。現段階で町会の情報を皆さんに伝えるための方法として、ホームページにアクセスいただきたいです。時流に適した方法として、誰もが持っているスマホで見られるメディアとしても良いのではないかと思っています。
- 実践講座のどんなことが役立ちましたか?
檜町: 講座に参加された他の町会の皆さんともお話させていただいて、これからの町会のことを真剣に考えておられ、同じような悩みを抱えていることがとてもよくわかりました。
ホームページの概要は分かっていても、実際に立ち上げるときにパソコンの操作がわからず、具体的な手順を踏むことができなかったのですが、実践講座に参加することで理解しやすくなりました。学んだことは資料を見返して実践することで、ページへのアクセスが少しずつできるようになりました。それにはやはり時間がかかりましたけれども、時が経って何回か講習を受けるうちに徐々にできるようになりました。
- プロボノワーカーと一緒に取り組んでみていかがでしたか?
檜町: 操作の手順でわからないことが起こっても、サポートいただける場でした。それが非常にありがたかったです。それからもう一つ、(プロボノワーカーの)操作を見て「こんなこともできるんだな」と新しい知識が実感でき、そんなこともホームページを立ち上げる時の構想に入りました。私が想像する以上に、傍で色々教えていただいたことがありがたかったと思っています。
- 町会さんと一緒に取り組んでみていかがでしたか?
プロボノ伊藤: 私はホームページ作成の技術職ではなく、今回は傍にいて一緒に悩む係でした。町会のことを私は本当に知らなかったのですが、親身に教えていただきました。素晴らしいと思ったのは、光田さんは町会活動を100%ボランタリーで、無報酬でなさっているのに、「色々な課題はあるけれど、できることから一歩ずつ前向きにやっていく。今は成果になるか分からないけれど、この後の人たちがこのホームページを見て何か気づいて使ってくれるかもしれない、という種まきをしているんだ」という話を聞いて、技術的に役に立ったというより、私にとっても学びが多い時間でした。(ホームページを)ひとりでも多くの方に見ていただけるといいなと思いました。
- 今後のお取り組み予定を教えてください。
檜町: 本来はこの場を通じて皆さんに公開をしようと思っていたのですが、ホームページで伝えるもの、伝えたいことが多くなりますと、載せる情報によっては肖像権、著作権、個人情報などに留意して作成に当たらなければいけないことが分かってきました。町会員からも、「このページは私が載っているけれど、公開されるのは気が進まない」と言われたこともありまして、そういったこともクリアしてから公開しようと思っています。ホームページそのものは、ほとんど完成に近いところまで出来上がっているところですが、もう少し公開まで時間をかけることにしました。
ホームページの知識ベースが増えるとより完成度も高くなりますし、公開後、ホームページを見た方々の反応が楽しみです。いろいろなご意見を反映していきたいです。
それから、次世代の方々に見ていただけることを前提に、スマホでいかにアクセスできるか、伝えられるかも考えていきたいです。現在の役員は私と同年代で、若手といっても60代後半。昔は会社の定年後に地域に入ったものですが、今は定年後も仕事をなさる方が多いので、イベントなどには参加できても、町会の運営に積極的には入ってこれない状況があります。
町会として今まで積み重ねてきたものが色々あるのですが、何かをベースとして残しておかないとこれからの世代に繋がっていかない。そのベースを残すには、倉庫の中にしまっておいては誰も見ることができません。ある程度公にして皆さんに見ていただく方法としてホームページを立ち上げることを考えましたし、これから内容を充実させていこうと思っています。
- これからホームページ作成を検討されている町会さんへのメッセージをお願いします。
檜町: 今までこの情報発信の手段を学ばせていただきましたが、まだまだ未完成のところがあります。無から立ち上げて、皆さんに今回この場で少しですが、発表させてもらいました。これをきっかけに、皆さんもホームページにチャレンジしてください。初めは難しいかもしれないけれども、ある程度講習を受けてからやると立ち上げられます。ホームページには決まりはありません。ご自分の活動している町会の意思でもって立ち上げられる、公になるページです。ぜひ皆さんにもチャレンジしていただきたいと思っています。
檜町町会ホームページ 公開準備中
※以下、東郷=東郷町会 熊谷氏、●=事務局(進行役)
- 運用中のホームページのご紹介 (こだわりポイント、工夫点、作成で苦労したところ等)をお願いします。
東郷: 今までの掲示板に町会の行事を貼り、回覧板で回すという従来の方法ではなくて、ホームページを作って若い世代の皆さんにも見てもらいたいという思いから4年前にこちら(実践講座)で勉強をしてホームページを作りました。まだまだホームページそのものがよく分からない中で(実践講座とは別途)パソコン教室にも通ったりして、色々教えてもらいながら写真なども入れて作りました。次の世代を始め、皆さんに分かってもらえるといいなという思いで作りました。
- ホームページを制作して良かったと思うことは何ですか?
東郷: ホームページを見て、よかったと住民からお声をかけてもらったり、QRコードをつけて「ホームページを作りました」と全部の掲示板に貼ったり、回覧板でも回しました。年配の方は分からないかもしれないのですが、その子供さんたちの世代がQRコードから見てくれました。町会の映像や写真を見ていただいてとても良かったなと思っています。次の若い世代にも町会の行事を知ってもらいたい、という思いを少しずつ分かってもらえたらと願っています。
- ホームページ公開から約4年が経過しています。公開後の取り組みについて教えてください。
東郷: 最初にホームページを作る段階ではなかなか役員にも理解してもらえませんでした。(実践講座参加後も)私一人でパソコン教室に通いながら自分で文章を作り、取り組みました。段々理解をしてくれまして、町会のホームページがQRコードを通じて分かってもらえるようになりました。コロナで行事ができない時期がありましたが、去年から町会の子どものお祭りを再開し、子どもだけの山車を出したり、ラジオ体操も開催したりできるようになってきました。2月には餅つき大会もしました。そうした行事の写真も、ホームページに出して、新しい情報をどんどん公開しています。
- 町会の皆さん等からの公開後の反応はどうですか?
東郷: (東郷町会が属する、中野区の)弥生地域では7町会の町会長会議がありますが、ホームページをやっていることが知られて、「よくやってるな」とお褒めいただいています。行事のお知らせを回覧で回しても、なかなか戻ってくるのには日数がかかります。行事が終わってからまだ回っていないこともありました。ホームページでは、写真を通じて皆さんに見てもらって「よく分かるよ」と言ってもらったりします。皆さんの声を聞きながら、行事についても発信していきたいと思います。
- ホームページの運営体制や運用で工夫していることがあれば教えてください。
東郷: まずは、町会の中に次の若い世代がパソコンに取り組んでもらうような部門を作りたいと思っています。私ひとりでやっていては意味がないし、次の世代がパソコンを通じて情報発信してくれるように、体制の中に部門を作って続けていきたいと思っています。新年度の総会に向けても、こういった思いを町会役員に伝えて、ホームページの担当の部門を作って、みんなで協議をしながら発信できればと思っています。次の世代の若い人はいっぱいいるのですが、役員をやっているのは年配の世代ばかりなので、家庭の中で息子さん娘さんたちにフォローしてもらって、ホームページを見て意見なども言ってもらいながら、次の世代の人も町会に参加してもらえたらという希望を持っています。
- 今後の課題と感じていること、お取り組み予定を教えてください。
東郷: どこの町会も高齢化していますし、高齢者の見守りをはじめ、色々な行事は各町会がたくさん実施していると思います。敬老の日には75歳以上の約200名、紅白饅頭を配っています。女性部が班ごとに分けて配ってくれていますが、年配の方だけでなく、次の世代の小学生、中学生の皆さんはどんな行事がいいのか、どんな行事であれば町会に集まってくれるのか、子ども会を通じて、少ない人数でも何か企画をしてやっていこうよという声かけはしています。
- これからホームページ作成を検討されている町会さんへのメッセージをお願いします。
東郷: ホームページは、文章だけではなく写真を多くしています。写真を見ればすぐ分かりますので、2月の餅つき大会も更新して写真を入れました。夏にはコロナも落ち着きそうですから、納涼祭などもやりたいと考えています。500名くらいの参加を見込んでいますから、ホームページを通じて行事を発信していきたいと思います。
第2部: 地域ごとの課題解決への取り組みのご紹介
活動の後継や活性化など各地域の課題解決に「個別支援」で取り組んだ団体による成果報告
「個別支援」は、第1部でご紹介した「実践講座」で取り扱う以外のテーマについて、支援先となる町会・自治会ごとに、プロボノが5名前後のチームを結成して支援に取り組むプログラムです。運営を改善したい、参加の輪を広げたい、活動を刷新したい、といった、それぞれの町会・自治会がお持ちの課題に対し、解決に向かうような具体的な成果物を作成していきました。本年度の個別支援は、全部で5つの町会・自治会が参加しました。
今年度支援を受けた1町会と、成果物の作成をサポートしたプロボノワーカーにお話いただきました。また、過去に支援を受け、その後成果物を活用しイベント企画・実施に踏み出された1自治会からもお話いただきました。
町会・自治会/登壇者名 | お話のテーマ |
中十条三丁目町会(北区) 佐藤 晃氏 | 自主防災組織の活動マニュアル作成 |
プロボノワーカー 吉田 三紀氏 | |
南新井自治会(日野市) 伊藤 裕造氏 ※事前収録映像出演 |
イベント企画立案・フロー整理に基づく防災イベントの開催 |
【トーク内容/中十条三丁目町会 自主防災組織の活動マニュアル作成】
※以下、中十条=中十条三丁目町会 佐藤氏、プロボノ吉田=プロボノワーカー吉田氏、●=事務局(進行役)
- プロボノ支援を受けようと思った理由/町会のプロジェクトを選んだ理由を教えてください。
中十条: 災害はいつやってくるか分からない、また必ずくるといわれている大地震に見舞われた時に、町会の自主防災組織はその役割を果たせるように、日頃から準備していなければいけません。しかし、町会の現状は自主防災組織としてそれぞれの役割は決まっていますが、何をすればいいのかが明確になっていないために、非常時に何もできずに混乱をきたすだけではないかと危惧していました。そのため、いざというときに備えて町会としてどのような対応ができるのか、どのように行動していくのかなどを明らかにした活動マニュアルを作成しなければならないと思っていました。災害発生時は消防や自治体の援助は得られないことは容易に想定できます。そのような状況でも町会として、また、自主防災組織として地域の方々と協力しながら命と町を守るためのマニュアルを作りたいと思っていました。どうしたらいいのかと考えていたところ、町会の課題解決のために協力していただける「地域の課題解決プロボノプロジェクト」に個別支援があることを知り、思い切って申し込みました。
プロボノ吉田:元々別のプロボノプロジェクトでNPOの支援をさせていただいたことがあるのですが、町会となると持っている課題や目線が違うかなと思い、学んでみたいと思いました。町会は若干、自分から遠い存在で見えていなかったというところも多いので、一緒にプロジェクトをさせていただくことでこちらも学ばせていただけるのではと思いましたし、以前保険会社に勤めた経験もあり、防災のプロジェクトに興味があったのも参加のきっかけです。
- プロジェクトはどんな風に進めていきましたか?
プロボノ吉田:メンバーは私も含めて6名のプロボノチームでした。実際の進め方は、佐藤さんと打ち合わせをさせていただきながら、町会の役員の皆さま、会員の皆さま、行政職員の方も佐藤さんにご調整いただき、区役所の方、消防署の方にもヒアリングをさせていただくことができました。ヒアリングを重ねながら町会の今の状況を外の目から考えさせていただきまして、防災意識の向上や町会に求められるニーズが何なのかを整理していきました。2022年の11月に実施された避難所の開設訓練にも有志で参加させていただくことができました。ヒアリングや外部調査を通じて私たちもいろいろ考えながら、町会の皆さんと意見交換をしながら、進めていきました。
- 成果物の紹介をお願いします。
プロボノ吉田:成果物は、元々自主防災組織、主に理事の方がどう動くのかを想像してプロジェクトを始めたのですが、いろいろヒアリング等をさせていただく中で、理事の方の人数が世帯数を考えますと少ないという状況もありますし、まずは住民の皆さんが自分たちで意識を持っていただいて自分自身を守っていただくのが必要なのではないかという議論がありました。自主防災組織の活動マニュアルという形ではあるのですが、まずは住民の皆さんがご自身の身を守れること、その上で近隣の人同士が協力できることも押さえる形で、自助プラス町会としてどういうことができるのかという構成のマニュアルにさせていただきました。住民の皆さんに知って欲しい基本的な防災情報や、自主防災組織として町会が今後取り組みたい要支援者の安否確認、及び、避難支援の実施に向けた情報など、町会の皆さんからもかなり資料等を頂戴してマニュアル作成をさせていただきました。
- プロジェクトで印象的だったことはありますか?
中十条:ヒアリングの中で私の認識を改めたことがありました。「消防団員は災害時にどのように行動されますか?」という質問に対して、「消防団員は、消防署の指揮、命令に従うため被災時は町会の自主防災組織の活動には参加できません」という回答を得たことです。また、消防署へのヒアリングでも、「消防団員の自主防災組織としての役割は?」という質問に対し、「災害時に自主防災活動に加わるのは難しい。基本、頭数に入れない方がいいです。消防団にはきちんとした基準があり、組織がしっかりしているので非常時でも計画が成り立つが、町会や自主防災組織はその時に人数が集まるかどうかも分からないので連携するのは難しい。町会は要支援者を優先的に対応してもらうことが有効です」とはっきりと言われたことです。自主防災組織の育成強化、地域の防災力向上のためには、防災の専門機関である消防署や消防団との緊密な連携協力が必要であるということは平常時のことであり、非常時でも協力してもらえるものと私が誤って理解していたことがわかりました。
- プロジェクトで嬉しかったことはありますか?
中十条:プロボノの皆さんは本当にお忙しい、そのような中でも町会がリストアップした14名全員のヒアリングを実施してくれ、さらに区役所や消防署の担当者までその範囲を広げましょうと言っていただいたこと、また、避難所開設訓練にも来ていただいた積極的な姿勢に本当に嬉しいなと思いました。2つ目は、当初町会が考えていた自主防災組織を中心とするマニュアル作りに行き詰まったときに、自助を中心として、プラスで共助の方向性に修正してくれたことは大変ありがたかったです。
- プロジェクトでこだわったこと、大変だったことはありますか?
中十条:中十条三丁目の区域にお住まいの全ての方々に、自分自身と家族の安全を確保するために知っておいてほしい防災情報、そして基本的な備えについてこだわりました。参考として町内の消火器、消火栓の位置、配備資機材一覧など町会の防災対策状況と、被災時には実際の避難所となる十条小学校の備蓄物資一覧も掲載しました。首都直下地震M7の地震が30年以内に70%の確率で発生すると予測されているにも関わらず、我々は災害に対し用心を怠っているかもしれません。マニュアルの中に1枚だけ写真を入れました。それは東日本大震災のとき避難所となった現地小学校の体育館の写真です。震災を忘れてはいけないと思ったからです。このマニュアルはあちらこちらの文献からピックアップしたものをただ並べたものではなく、中十条三丁目町会の会員や区域の住民のために作った防災マニュアルです。ひとりでも多くの方に役立てていただきたいと思っています。
- プロボノワーカー/町会と一緒に取り組んでみていかがでしたか?
中十条:2022年の10月から4ヶ月間、企業で働くお忙しい6名のプロボノワーカーの皆さんが町会の課題解決のために真摯に取り組んでいただけたことは驚きであり、感謝の一言に尽きます。我々、町会役員の意見をよく聞いていただき、町会がリストアップした7名の会員、7名の理事、区役所、消防署の各ご担当者までヒアリングするだけでも大変な準備と作業がプロボノチームの中で行われたことと思います。またそれらを受け、マニュアルとして具体的に見やすくまとめあげるまでには、チームの皆さんが役割を決め、それぞれが責任を持っていくつもの文献、各種のマニュアルやホームページなどを調べたことと思います。中間提案、町会への意向確認と手直し、最終提案から再度の手直し、そのようなご苦労を受けて出されたチームの成果物は、客観的、建設的、そして具体的なものでした。町会だけでは到底でき得なかった防災マニュアルがついに出来上がり、今は大変嬉しく思っています。
プロボノ吉田:まずは今の話をお聞きして非常に嬉しかったです。プロジェクトを通じてプロボノだけが動くことは全くなく、一緒に対話をしながら進めていけたことが非常に嬉しく、楽しく思いました。実際に町会の皆さんのお話を聞いてみると全く自分の知らなかった世界がそこにはあり、とても勉強させていただくことができました。自分たちの町を守るために、このような素晴らしい活動をしている皆さんに非常に感謝しています。
- 今後、成果物をどのように活用したいですか?
中十条:まずこのマニュアルを町内に普及させたいと思います。その中で、自宅避難を前提とした備蓄など自助を進め、同時に共助の重要性を訴えながら地域の防災力向上を図っていきたいと思います。2つ目は隣接する2町会とは、この情報を共有しながら、それぞれの自主防災組織と被災を想定した訓練の共同実施、避難所の運営など今後の対応について協議する場を持ちたいと思います。
先日、3月4日から5日にかけて、70歳以上となる会員の方を対象に、長寿を祝う記念品を申し込まれた215名のお宅に戸別訪問し、品物をお渡ししてきました。その時、見守り活動として、避難行動要支援者の一部の方を含むほぼ全員の見守り調査票を作成しました。今回は、災害の発生を想定し「非常用持ち出し袋は準備できていますか?」という質問項目を入れてみました。その結果は、調査票の人数184名に対して、準備できていると答えたのは93名。50.5%でした。半数の方は準備できているけれど、半数の方は何も準備できていない、していない状況がわかりました。戸別に訪問し品物をお渡しする活動は昨年度も行いましたが、町会活動の見える化、そして、住民同士の顔の見える関係づくりというのは町会活動の基本であり、これは自主防災組織の共助としての支援、そして、お互いの信頼関係を構築することにつながり、いざという時にも役に立つ非常に大切なことだと考えています。
【トーク内容/南新井自治会 イベント企画立案・フロー整理に基づく防災イベントの開催】
※以下、南新井=南新井自治会 伊藤氏(事前収録映像出演)
- 実施された防災イベントの、当日の様子をご紹介ください。
南新井: イベントは、南新井のまちをぶらりと歩いていただいて、南新井という地域、そしてそこに住む人たちの活動、そしてこの地域の防災を歩きながら体で感じてもらおうという思いで、2022年10月15日に「南新井ぶらり体感~地域と防災~」という名で開催しました。
曇り空でのスタートで、一時小雨も降る中、自治会の内外から45名の方にご参加いただきました。地域団体などの約33名のご協力もいただき、イベントは無事開催することができました。
参加いただいた方からは、「このようなものが、この地域にあったんだ」という驚きの言葉や、「こういう活動する場所があったんだね」というお話、イベントの目玉として動物たちにも来てもらいましたけども、そういったことが「この地域のイベントでできるんだね」という驚きの言葉、本当にやってよかったなと思うようなご意見ご感想をいただけたことが嬉しく思います。
- 「より参加者の輪が広がる・楽しめるような工夫を盛り込んだイベントにする」指標は達成できましたか?
南新井: 防災を第一に考えますと、住民同士の顔がわかるような状態を作っていくことが非常に大事だと思っております。
このコロナ禍でのイベントは、参加者同士の繋がりということは実現できなかったのですが、参加者が南新井の町を歩いていただく中で、そこで色々な活動をしている方達との触れ合いを持っていただくことができたと思います。
大事だったことは、自分たちの住む地域、そこで住んでいる方達がこの地域で活動している内容を分かっていただく、さらには防災でどういった活動をしているのかを分かっていただくことです。イベントのクイズラリーという形で楽しみながら参加する中で、皆さんに理解を深めていただいたと感じております。
- プロボノプロジェクトの価値が感じられたエピソードはありますか?
南新井: プロボノの皆さんと様々なお話をして検討を進めながら、「一緒に取り組んでいる検討そのものの流れを残しておきたい」という気持ちになりました。
というのは、プロボノ活動は非常にありがたい反面、そのときのスポットの支援になってしまいます。自治会として、プロボノチームの活動が終わった後の自治会活動の中で、知識や学んだことを引き継いでいかなければという思いがありましたので、イベント企画立案のフローを、プロボノの皆さんと一緒にまとめました。
- プロジェクトの成果はどのように活きましたか?
南新井: 当初(注:2022年2月)のイベントが(コロナの感染拡大により)開催できなかったので、同年10月にリベンジ開催したわけですが、プロボノの皆さんと一緒に作った企画案とフローがあったので、開催準備の段取りから楽に進めることができました。
当初の検討に参加していなかった新しい役員の方々への説明も、成果物のドキュメントを使って、イベントでの狙いや、私達が大切にしたいことを理解していただけたので、全体として非常に進めやすかったです。
- 提案内容は、自治会内部からの評判はいかがですか?
南新井: これまで南新井自治会は、色々なイベントをするにしても、自治会員の皆さんの中で考え、準備をし、実施することを、皆手弁当でやっておりました。
今回、プロボノの方に色々ご協力いただいたわけですけども、こういったプロボノのご支援のほか費用面でも、東京都で準備いただいている助成金制度を活用してイベントを開催することができました。こういった色々なご支援を活用する発想そのものが、これまでの自治会では弱かったところでした。外の力がうまく借りられたことは、自治会の中で、非常に役員のご理解ご評価をいただいたところだと思っております。
- ご提案後、自治会に変化がありましたか?
南新井: これまで自治会活動の中心であった「南新井まつり」は、役員の皆さんが非常にお忙しい中、時間を作って準備をしてこられたわけですけれども、そういったこと自体がやらされ感を持ってやっていたのではないかなと反省するところがあります。
今回プロボノの皆さんからご提案いただいた新しいスタイルのイベントは、役員がやらされ感でお手伝いするということではなく、時間のある人が、できるときにできることをやるという形であっても、イベントがちゃんとできることを、参加者が体感できたと言えます。
- 今後の課題と感じていらっしゃることはありますか?
南新井: プロボノのご支援がなくても自治会として色々なことができるのが、自治会のあるべき姿だと思っております。
今回、企画段階のフローを作っていただきましたが、企画の段階はフローがあっても、やはりそれを実行できる人が限られています。そういった経験のある若い世代の地域の人が、地元のプロボノとして活躍できるようにしていかなければと思っています。私達自治会役員のやるべきことの一つは、そういった場づくりかと、課題感を持っております。
もう一つの課題は、実行面です。何でもできることからお手伝いしてくださるという方は多くいらっしゃいました。そういった方々がさらに動きやすくなるようにマニュアルも作りたいと思いますし、自治会内外にいらっしゃる協力者のネットワークづくりをしていければと思っております。
※以下、第1部・第2部登壇の皆さん
質問: 引っ越しをしてこられた方は町会・自治会に加入され、活動に参加してくれていますか?参加してくれない方に参加してもらうために、どのようなことを考えておられますか?
東郷: 新しく家の建った所には、地区の町会役員が区の加入申し込みのパンフレットを持って、お訪ねしています。町会の名刺と、加入申込書も一緒に持っていきます。そこには町会費の月額・年額も書いてあります。
質問: 普段参加しない方の活動への参加という視点では、プロボノワーカーという、町会・自治会活動にさほど関わったことのない方々が地域に関わることによる掛け合わせに、本事業の魅力があるのではと思っています。企業での日頃のビジネスのやりとりと、町会・自治会の活動は、温度感や進め方も違うと思います。いわゆる余所者が町会・自治会に関わっていくことは、ご自身の生活やお仕事にプラスの経験になっていますか?
プロボノ吉田: 今回の経験を通じて視野が広がったと感じています。マンション暮らしで、町のことは知っているようで知らなかったなと痛感しました。仕事に対しても、普段は一つの面からしか見ない部分に対して、他の面があるのではないかと気づかせてもらえる、良いプロジェクトだったと思います。多面的なものの見方に影響があったと思います。
プロボノ伊藤: 客観的なことをするのは、余所者、外の人のほうがやりやすいのだろうと思います。人間関係など一切忖度なくできるところでお役に立てることも嬉しいです。
ワーカー同士や、ワーカーと町会・自治会の方が話していく経験は、発注されて納品する関係とは違い、同じ階段を登っているはずなのに、関わる人と時々の発言によってアウトプットが変わっていきます。
プロボノワーカーがいなくなった後にも続いていく活動に瞬間だけ介入するのですが、支援先の町会・自治会さんが主人公の物語に関わらせていただいている満足感は、普通の仕事よりも大きいのかもしれないと思います。
質問: ホームページの作成目的が作成前と後で変わりましたか?例えば会員増という目的が、町会内の広報目的に変わったなどということはありましたか?
檜町: 町に興味を持ってもらいたいという目的を大前提に考えていました。住んでいる方はいますが、町会活動に参加していない。呼びかけても、反応が鈍い。従来から活動している方は町に長くいる人がほとんどなので、ホームページでもって関心を持ってもらうようなPRを出来るだけ幅広い方に投げかけたいということが私の主な目的でした。まだ立ち上げていないので反応がわからないのですが、立ち上げて反応を見てから対応していきたいと思っています。
質問: 中十条三丁目町会さんの防災マニュアル配布対象は町会員全員ですか?公開はされていますか?
中十条: 今後町会のホームページの中で公開することになっています。出来上がった成果品は30数ページあるので、配布にあたっては印刷などの費用がかかると思います。これには助成金(注:東京都「地域の底力発展事業助成))の活用も検討しており、この一環として地域の防災訓練開催と合わせた短時間の勉強会での活用を計画してみようかと考えています。
質問: 歴史の長い町会では長年のしきたりや慣習があり、新しいことを取り入れたり、変化したりするのを好まない傾向もあります。プロボノワーカーの意見は素直に受け入れられたのでしょうか?
東郷: ホームページを作っても、私だけが更新している状態で、中々理解を得られませんでした。QRコードを作って、ホームページ開設を回覧板で回してからは見ていただけるようになりましたし、役員のLINEでも発信しています。年配の方はあまりホームページでは情報を見られないと思うので、回覧と掲示板とで見てもらっていますが、(そういった方々が)携帯で見られるよう、将来的にはFacebookなど勉強して発信を検討してみたいと思っています。
檜町: 昔から引き継がれたことを「これは古いから(というだけで)やめよう」ということはありません。私が携わってからも、そういうものは出来るだけ残していきたいと思っています。若い人には経験がないことも残していきたい。先人から貰ったものを町の中に残すこと、関心を持ってもらうことが、一つの町会のあり方だと思っています。
質問: 支援したくなる町会・自治会の条件やプロジェクトの条件はありますか?
プロボノ吉田: 特に条件があるわけではないのですが、今回参加して嬉しかったと思うことの中に、課題に対して魔法の杖があってすぐに答えが見つかるわけではないプロジェクトでも、町会の方が一緒になってゴールを目指してくださる姿勢はありがたかったなと思います。
プロボノ伊藤: おそらく今は、プロボノをやりたい人の方が多い状態だと思います。期間、場所、関心のあるテーマも人それぞれで、自分が住んでいた町の近くという理由で選ばれていた人もいました。地域とゆかりがあるとか、特色につながりを感じるとか、後はご縁だと思います。今まで知らなかった町だけれどこのタイミングなら合うと選ばれることもあると思います。ですから、ことさらに盛る必要はなく、正直に課題に向き合っていることを伝えていただいたらそこに共感される方は必ずいらっしゃるし、共感するポイントがプロボノワーカーそれぞれで違うので、自分たちの課題に共感してくれる人に来て欲しいなと思う場合には、課題について明確に伝えていただくのが一番なのではないかと思います。
質問: 外部のサポートを受け入れるときのコツはありますか?
中十条: プロボノの皆さんには、解決したい課題について、解決に向かうために真摯に、一緒に取り組んでもらいたい、そして、その課題が出てきた背景まで聞いてもらいながら取り組みたいと思います。そして、町会が求めるのは客観的なもの、建設的なもの、具体的なものです。町会のメンバーと一緒に考えて、提案していただきたいです。そして成果品を活用して今後町内で取り組んでいくわけなので、内容はもとより、(共有するために)見栄えなどもよくしていただきたいということです。
【クロージング】
これまでの支援事例は「東京都町会・自治会活動支援ポータルサイト」から閲覧可能なこと、2022年度の事例も5月以降に公開予定となることをお伝えし、2時間のイベントを締めくくりました。