研修プログラム参加者のスイッチを入れる三つの仕掛け
国内最多のプロボノ実績を誇るサービスグラントが提供する越境学習「プロボノリーグ」。2020年度は、従来の集合プログラムの全日程をオンラインで実施しました。
プロボノリーグが始まって以来、初めてのオンライン開催でしたが、参加者の高い満足度を得られたプログラムとなりました。また人事担当者からも予想を遙かに超える内容だったという声もいただきました。
そこには内容を充実させるには欠かせない研修プログラム参加者のスイッチを入れる三つの仕掛けがあり、それによってプログラムを成功に導いています。今回は2020年プロボノリーグのレポートとその三つの仕掛けについて触れたいと思います。
目次
2020年プロボノリーグの概要
プロボノリーグは、企業から集まった若手・中堅社員で異業種チームを結成し、非営利組織の組織運営上の課題解決を目指す、アクションラーニング形式の研修です。
1カ月半の期間で、4回の集合プログラムと任意のチーム活動を通して、団体の抱える課題の真因を探り、その解決策である具体的な成果物を作り上げます。また、参加者同士の相互作用を通じて、参加者の行動やマインドの内省を深め、プログラムの学び・気づきの定量的なフィードバックを行っています。
2020年のプロボノリーグでは、金融・IT・メーカー等の5社から9名の方が参加され、2つのチームで支援先団体の課題解決に取り組みました。参加者の半数は日常的にWeb会議を利用していましたが、数か月に1回の利用や全く利用経験がない参加者に対しては、運営者よるWeb会議の利用方法のレクチャーもあり、脱落することなく進めることができました。
今回の支援先は、NPO法人キープ・ママ・スマイリング。病児を育てるお母さんが笑顔でいられる社会の実現を目指す団体です。本来ならば団体へのヒアリングやフィールドワークなど対面で行うプログラムもありましたが、こちらもチーム活動同様に非対面で実施しました。
コロナ禍で余儀なくされた形で進めたオンライン研修ですが、進行に関しては何ら問題なくスムーズに行うことができました。実行性に問題はないとして、では研修の効果はどうだったのでしょう。次のセクションでそれらを検証していきたいと思います。
成果物の品質と参加者の活動の様子
研修の効果を知る一つの手段として、プログラムを通して制作された成果物の品質があります。プログラムでのインプットがどのように活かされ、アウトプットされたかを知ることが出来ます。
成果物について、キープ・ママ・スマイリング代表の光原さんから次のようなコメントをいただきました。
私たち団体が成長し、目指す社会を実現するために現状を把握、分析し、提示された真の課題については頷くものばかりでした。また、その課題に対する提案も具体的なもので、成果物もそのまま私たちが活用できるレベルで感動しました
団体の置かれている状況や課題を理解し、自分たちの言葉に落とし、普段とは異なる立場の非営利組織団体と同じ目線に立って、実際に団体が実現可能な企画や品質の高い成果物を提案できたものと、光原さんの言葉から伝わりました。
また、成果提案のプレゼンテーションにオブザーバーとして同席された参加企業の人事担当者や上司の方からは、参加社員の活動の様子について、次のようなコメントをいただきました。
両チームとも、すぐに使える成果物を提案しており、支援先団体の想いをしっかり受け止めた温かい提案だったなと感じました。参加前は、“社会課題とかには興味がない”と言っていた社員が、参加してみて、社会課題について考えるきっかけになったと言っています。当社としては、社会課題を肌感覚で捉えてほしいと考えているので、送り出してよかったと思っています。
参加した社員の様子を伺うと、会社ではうまくいっていないこともチャレンジできる場になっていたのではないかと思います。チームの様子を見ながら、普段はしない行動にチャレンジしていたように感じました。同世代と協働する機会が初めてで、いい経験になっていました。
もしかしたら、職場よりも活躍しているかもしれない。社員のリーダーシップや主体性を存分に発揮できる機会を人事としても作っていきたいと感じました。
これらのコメントから、プログラム参加者の日常業務とは違った側面や、より高いパフォーマンスを発揮していると見てとれ、それが高い成果に繋がっていると考えられます。
プロボノリーグでは、多くのプログラム参加者が普段より高いパフォーマンスを発揮します。それは、プログラム初日から生じた内面的な変化がきっかけとなり、そこから熱狂して参加していきます。それでは、内面的変化とは何なのか、参加者のコメントから確認していきましょう。
それぞれの価値観に基づいた目標設定
プロボノリーグでは、参加者一人一人がそれぞれの価値観に基づき目標を立て、プログラムにのぞみます。プログラム期間中、目標との乖離から内省を繰り返し進めていきます。以下にその行程で生じた変化などが分かる、参加者のプログラム参加後のコメントをご紹介します。
会社だとトップダウンが多いが、プロボノリーグでは、メンバーがフラットな関係性の中で、それぞれがリーダーシップを発揮しながら成果を出すことを求められた。なかなか出来ない経験だと思ったし、だからこそ提案の質が高まったのではないかと思う。リーダーシップとは?をたくさん考えた1カ月半だった。
メンバーの前提・常識が違うからこそ、言葉を尽くさないといけない。伝える、聴く、忍耐がないと品質が上がっていかない。だからこそ、メンバー間の安心、安全の場づくりが大切と実感した。自社でもこの気づきを活かしていきたい。
正直なところ、自ら手を挙げてこのプログラムに参加していませんでした。最初はモチベーションが低かったと思います。でも、団体の熱い想いに動かされましたし、メンバーのエネルギーが伝わってきて、気付いたら没頭していました。
オンラインだけでプロジェクトを進めることが出来るのか不安でしたが、チームメンバーのそれぞれが当事者意識を持ち、役割を考えることで、いい提案が出来ると身をもって体感できたことも社内では出来ない経験だったと思います。
「リーダーシップ」「安心安全の場作り」「メンバーのエネルギー」「当事者意識」と参加者一人一人のポイントやタイミング、考察の深さに個人差はあったものの、自分自身の行動を阻害していた要因(裏の目標や固定観念・囚われ)に気づき、内面的変化を実感したようです。
研修プログラム参加者のスイッチを入れる三つの仕掛け
プロボノリーグへの参加のきっかけは、人事や上司から指名を受けた人、自ら手を挙げて参加した人など様々です。また、ボランティアに参加した経験がある人から社会課題やソーシャルセクターには全く興味がない人まで、プログラムへのモチベーションや興味・関心の度合いには幅があります。
しかし、全員が初日からこのプログラムに前向きにコミットしようという意識が感じられ、実際に、プロジェクト期間を通して最後まで熱量高く活動を進めてきたのには、理由があります。それはプログラム参加者のスイッチを入れる三つの仕掛けです。
1. 職場での事前アセスメント
プロボノリーグでは、プログラム実施前に職場でアセスメントを実施します。職場のメンバーも巻き込み行われるアセスメントは、普段の自分を表すものです。指標は行動からマインドまで測る内容となっており、自分の内面をも振り返る機会を与えています。それによりプログラムを通した内省が事前に促され、プログラムに参加する意識が高まります。
2. 自己開示の促進
初めて顔を合わせ、バックグラウンドも異なるチームで、約1カ月半という短期間で成果を上げるには、チームビルディングとコミュニケーションが非常に重要です。それには、それぞれの自己開示はもちろん、チームメンバー間で互いに意見を出し合うことが求められます。参加者同士の相互作用によって、内面を掘り下げ、個々人の考え方や価値観が共有することで、お互いの理解が進みます。
3. 当事者意識の植え付け
ソーシャルセクターに興味・関心がない層も参加するプロボノリーグでは、社会課題への問題意識や、それを解決したいという熱意を源泉に活動を進める存在に出会うこと自体が、参加者にとって大きな衝撃となります。また、自分たちがプログラムを通して提案する成果物が、実際に団体に使われ、今後の活動を左右する可能性があるという状況が、実際に支援先団体に会うことで、責任感を高め、圧倒的な当事者意識を植え付けることができます。
こういった仕掛けに加え、普段関わることのない同年代の他社のメンバーからも刺激を受け、最初は比較的モチベーションの低かった参加者の心にも火が付き、参加意欲に変化が生まれ、活動にコミットしていきます。
自分自身の「ものの見方や考え方」を他の参加者のそれと比較対照して自己洞察させることで、参加者の気づきが生じます。それによって参加者は単なる知識、概念の習得にとどまらず、「知識、概念の使い方」を学習することになります。また、自己変容を伴う学習プロセスは、参加者にとっては自分自身に関する新たな知識の獲得と同時に、自己変容によって獲得した知識を、自分を取り巻く世界の中でどのように活用するかについて考えることができます。
2020年度のプロボノリーグは、このような形で実施されました。2021年度も引き続き新型コロナウィルスの影響が心配されますが、状況に合わせて柔軟に対応できるよう、さらにバージョンアップし今秋のプログラム開催に向けて準備を進めていきたいと思います。