小さな気づきの感度があがるプロボノの醍醐味は化学反応と変化
池田 祐理さん
プロボノでの役割:マーケッター
参加プロジェクト:日常生活支援ネットワーク(2012年7月~2013年9月)/ 地域づくりを支える生野区・東中川の地域活動協議会(2013年11月~2014年3月)/ 里山倶楽部(2015年7月~2016年9月)/ 女性ライフワーク協会(2016年6月)
電機メーカーで営業支援やショールーム運営などを担当しながら、2012年から継続的に複数のプロボノプロジェクトで活躍されている池田さん。母としての仕事、企業人としての仕事と並行しながら、プロボノプロジェクトへの参加はもとより、事務局運営をサポートする関西事務局の通称:裏ボノ団のメンバーとして、NPOをゲストに迎えて社会課題について学ぶイベント”大人の社会科見学 in OSAKA”の企画・実施も。奥ゆかしさをまといながら常にアクティブな池田さんに伺いました。
スキルを活かせて何かが生まれそう
東京の本社が企業プロボノに取り組んでいるのを知り、大阪でも機会がないかとサービスグラントを検索。実施されていた説明会に参加をしたのが始まりです。説明を聞いているとスキルを活かす、ということで自分には敷居が高いなと思ったのですが、登録しておくくらいであればいいかなという気持ちでした。
それまでばりばりの営業ではないですが販促スタッフをずっとやっていて、お客様の所へヒアリングに行ったり、伺った内容を資料にするということはずっとやってきたので、そんな経験が役立つのかなぁとマーケッターとして登録をしました。
プロボノに関心を持ったタイミングはちょうど子どもが中学校にあがった頃です。子育てが一段落して時間が空きそうだなという見通しと、親戚の中にNPOやNGOに勤めている人がいて、何かそういう活動に関わる事もやりたいなぁ、と思っていたところに、あなたの仕事のスキルを生かしませんか? というメッセージが引っ掛かったのだと思います。ボランティアといっても、力仕事というもの以外の選択肢で、スキルを活かせて何かが生まれそう、世の中の役に立てるかもしれない、という予感が登録への後押しをしたようにも思います。
四者四様のプロジェクト
1件目は大阪市内にある、障がい者の生活支援事業に取り組まれている日常生活支援ネットワークさんのウェブサイトリニューアルでした。マーケッターとして参加しましたが、初めてチームメンバーが集まった時まず思ったことは、普段では会えないような企業の人に会えるんだ、ということ。そして、同時にちゃんとできるかな、という不安も過りました。
実際のプロジェクトはまさに試行錯誤。ウェブサイトリニューアルの目的は、障がい者の日常支援を行うヘルパーさんを集めたいということで、最初にヘルパーさんのインタビューを依頼したのですが、多くは主婦の方でいろんな仕事の合間を縫っての数時間だけのお仕事だったり、直行直帰が多いので、ヒアリングの為の時間を拘束するのが難しいという状況がありました。サービスグラントでは予めプロジェクトの進め方の目安として進行ガイドが提供されますが、いきなりマニュアル通りにはいかない事態に陥ったものの、内部のスタッフへのインタビュー、アンケートを紙やオンラインで依頼してもらう仕組みを作ったり、団体で主催されている勉強会、研修会の時に15分だけヒアリングさせて下さい、という場を取ってもらったり、どうにかこうにか意見を集めていきました。
チーム全員が初めてのプロボノだったので、サンプルの提案フォーマットをベースに議論を重ねて中間提案に進んだわけですが、団体さんはすごく協力的で時間を割いて提案も前向きに捉えて下さいました。
2件目は、地域づくりを支える生野区・東中川の地域活動協議会の最新のネットを活用した情報伝達方法の導入でした。当初は地域の高齢化が進んでいる中で地域のお母さん方にも街の活動を伝えたい、若い人の声を集めたい、そのために若い人が使っている手段で情報発信をしたいというお話でSNSの活用や、地域のお母さん方が欲している情報リサーチと提案などをイメージしていたのですが、成果物としてウェブサイトのフレームを作ってほしいという要望があり、ワードプレスのテンプレートと運用マニュアルの提供、使い方の説明会をして後は地域の自主性にお任せする形でプロジェクトを終えました。
3件目は、里山保全に関わる里山倶楽部さんのウェブサイトリニューアル。プロジェクトチームとの情報発信の検討を通して団体さん自身が設立時からの変化に気付き、新たなキャッチコピーを掲げました。
4件目は、プロボノ1DAYチャレンジ(準備期間1ヶ月、本番1日のプロボノ体験型イベント)で、家事代行サービスを行う女性ライフワーク協会さんの課題整理に参加し、将来は女性が輝く学校を開きたい! という代表の想いを見える化しました。
違いを認める受容力と小さな気づきの感度があがるということ
1件目ではプロボノメンバーを対象に、障がい者支援についての勉強会をわざわざして下さって社会課題をより知るきっかけにしたり、2件目の地域づくりに関わるプロジェクトでは高齢化や世代間を繋ぐ難しさなど、地域ならではの苦労を知る機会ありました。またチーム内から色々な意見が出てくると、会社の中とは違うんだ、と素直に思う事は多かったですね。
職種が違うという事もあってデザイナー、コピーライターのクリエイティブ職の方とは普段お付き合いがないので、ぽこぽことアイディアが沸き出てくる様子が新鮮でしたし、銀行にお勤めの方は考え方や言い方が堅実で、確かにふわふわせず一つひとつきちんと定義して固めて行く事も重要だよなと、気づくこともありました。意見を否定するわけではなく、思いもかけないところ、想定外の所から意見が出てくる所に面白さと新鮮さがありました。会社が違うとこうも考え方が違ってくるんだと心が広くなった感覚はあります。仕事ではないという環境も受容力を高めるところに一役買っているかもしれません。
自分自身のスキルに自信が十分あるわけではないけれど、自社の中ではできない事を色々な人とやり取りすることは自分のためにもなるだろうとすごく思っていたし、仕事とはまた違う経験を通じてスキルアップできたらなとは思っていました。別の環境に身を置く事で小さな色々な気づきがあり、それが転じて具体的なエピソードとまではいかずとも、普段の仕事でも気づく事が増えたかなとは思います。
子育てや仕事、プロボノの時間配分やバランスについては運良く二重、三重で大変な時期が重なるということがなかったのですが、複数の役割を持ちながらうまい時間の使い方を見つけて実践していくというのは仕事にも関係していくスキルなのだと感じています。
社内部活動の始動、そして、プロボノの醍醐味は化学反応と変化
プロボノを経験して自分も楽しいから勧めるわけですが、それに留まらず会社の中で部活動を立ち上げて「ある地域への応援を一緒にやりませんか?」と声がけをしました。何名か手を挙げてくれた人と一緒に昨年末からチームを立ち上げて、大阪市内で子育て支援に関する活動の支援に取り組んでいます。
プロボノを経験して思うのは、アウトプットを団体さんに渡したのが成果ではないということ。団体さんと色々な話をしていく内に、団体さん自身が変わっていかれたという事が殆どでした。3件目のプロジェクトは成果物のメニューはウェブサイトでしたが、リニューアルに向けて関係者にヒアリングをしたり、団体さん内部でも色々な話し合いをする中で20年前のキーメッセージを変える決断をされました。時代も環境も自分達も変わってきている中で団体のコンセプトも変わってきたんじゃないか、と、掲げていたメッセージをおろして、団体を一言で表現するなら今はこうなんだ、と新しいキャッチコピーに変更されました。
ウェブサイトを変えるという話で集まったのだけど、ウェブサイトをきっかけに根本的な団体の立ち位置、今後10年目指すことに内部の話が進み、内外に伝えたいメッセージとして言語化されました。団体さん自らが変わって行かれる変化、プロボノメンバーやプロジェクトがきっかけとなって化学反応が起きるというのか、よりよく変わっていかれる様子を見れて良かったと思います。チームが出したアウトプットはもとより、団体さんが次のステップに変わっていかれることがプロボノの最大の成果、プロボノの醍醐味なのだと思います。
※掲載内容は2017年6月取材時点のものです。