プロボノは“自分の取り組む仕事の価値を外から見直す”きっかけに
葛谷 晴子さん(広告・グラフィック制作会社 勤務)
プロボノでの役割:コピーライター
参加プロジェクト:モンキーマジック(2013年7月~2013年10月)/ 日本ヒューマン・ライツ・ウォッチ協議会(2011年3月~2012年6月)
本業ではコピーライターとして、日々大手クライアント企業と仕事をする葛谷さん。プロボノ活動に参加したことで、今の自分の仕事の意義や価値観を改めて見直すことができたといいます。実際のプロボノ活動の内容や心境の変化についてお話を伺いました。
自分は一体なんのために今の仕事をしているのか
−まずはプロボノを知ったきっかけを教えてください。
クライアント先でCMの撮影をしていたときの待ち時間に雑誌を読んでいたのですが、たまたま開いたページにサービスグラントの活動が紹介されていました。こういう形のボランティアがあるんだというのをそこで初めて知りました。
−雑誌でサービスグラントの活動を知ってからはすぐにスキル登録をされたのですか?
雑誌がきっかけではありましたが、すぐには応募はしなかったです。ただ、当時はいろいろな出来事が重なって、なんとなく自分の仕事に無力感を抱くようになっていました。「自分は一体なんのために今の仕事をしているのか」ということを考えていた時期でもあって、フラストレーションが溜まっていたんだと思います。そんな時、偶然目にしたサービスグラントの記事を読んで、自分が培ってきたスキルを使って、コミュニケーションの方法に困っているNPO団体のお手伝いができるのであれば参加してみたいと思いました。それから少しして説明会があることを知ったので、勢い良く参加してみました。
−プロジェクトに関わる前に不安などはありましたか?
これまで特に転職したこともなかったので、外の人と仕事をするという経験があまりなかったんです。「本当に大丈夫なんだろうか」と心配していたところはありましたね。
−実際にやってみていかがでしたか?
普段から会社でやっていることとそこまで大きな違いは無かったです。経験値や業界が違うと、誰かの意見に左右されたり一方的に発言する人もいるのではないかと思っていたのですが、チーム内での役割が機能していたのでそこまで心配する必要はありませんでした。本当に優秀な人が多いと改めて感じました。
せっかくの提案が「すべてやり直し」になったことも!
−個人として何か工夫されたところはありますか?
普段の仕事との違いがあるとすれば、クライアントさんの専門性が異なるということです。普段の仕事では、お客様もマーケティングや宣伝部などに所属しておりコミュニケーションの仕事に関わりが深い方とのやり取りが多いんです。一方でNPOの方たちは社会課題についてのプロであって、コミュニケーション分野に精通されているわけではないので、プレゼンをする際にはいかに相手側が最終成果物をイメージできるかを意識しました。企業相手には説明を省いても問題ない部分を、丁寧に説明することに気をつけました。
−支援先NPOとのコミュニケーションはいかがでしたか?
スムーズなやり取りができていたと思います。ただ、決定していた事項が突然覆ったりすることもあったので、合意形成してから次のステップに進む、ということがきちんと共有されていなかったところは反省点だと思います。また、視覚障害者の支援活動をしているNPO法人モンキーマジックさんとのプロジェクトでは、意思決定者が目の見えない方だったので、成果物に記載するコピーをどのように説明するか、細かいところまで意識しました。普段の仕事ではなかなか経験できないところです。
−チームからの提案内容はスムーズに受け入れられましたか?
あるプロジェクトでは、制作提案のミーティングの時に成果物に記載するキャッチコピーを提出したら大激論になり、すべてやり直しになったことがありました。マーケティング調査の段階でチームとNPO側の間で合意していた内容と、制作チームからの提案内容が異なっていることが判明したんです。納品日がある程度決まっていたのですが、それも完全にオーバーしてしまいました。
−ヒアリング調査から制作段階への引き継ぎは難しい部分ですよね。
結果的にこれらのプロセスを経たおかげで、最終的にもの凄く完成度の高い成果物ができあがったと思います。キャッチコピーに関しては何度も突き返されることもありましたが、最終的に選んで頂いたものを、そのNPO団体の設立9周年イベントの時に代表の方が強調しながら話していたのには感動しました。
“コミュニケーションで社会を良くする”を実現
−プロジェクト前後でどのような心境の変化がありましたか?
もともとボランティアに対しては全く興味がありませんでした。無償で何かをしたら「ありがとう」といわれるのは当然で、それ嬉しくてやるというのは不健全な感じがしていたんです。やったことに対して対価をもらうということが社会活動の本質であるという想いがありました。
でも、実際にサービスグラントにスキル登録をして自分がそういう活動をやってみると、自分が社会人になって積み上げて来たスキルを使って、本業の中でやりたいと思い描いてきた“コミュニケーションで社会を良くする”ことが実現できたと思います。また、NPOで働く方々の情熱を目の当たりにできるだけでも価値があると実感できました。実現したい未来を明確に持っている人と直接やり取りができる、その人の役に立ち成果を耳にすることができたので活動に参加してよかったです。
−社会活動(ソーシャルワーク)とはなにかを改めて認識することができたということですか?
私の場合はそれがコピーライターというスキルで役に立てた訳ですが、仕事を通して培って来たスキルやノウハウを持って、社会の役に立てるというところを実感しました。そのように認識することで自分が関わっている仕事も世の中に役立つ仕事であると思えるようになりました。
−今後の活動について教えてください。
特に会社のCSR活動に参加しているわけではありませんが、今回さまざまなNPO団体とのつながりができたことで、本業の方でも、クライアント企業様のCSR活動に向けてアイデアなどを提示できるのではないかと模索しています。
対等の関係を築けるところが、普通のボランティア活動とはひと味違う
−未来のプロボノワーカーへアドバイスをお願いします
プロボノ活動は自分が取り組んでいる仕事の価値を外から見直すきっかけになると思います。私自身、登録する前は社外のチームで自分が通用するのかどうか心配していましたが、普段仕事をしている感覚と大きな違いはありませんでした。やる気があって登録している人たちが多いので、良い刺激にもなります。
プロボノに参加する価値は自分でなければできないような活動があるということだと思います。NPOで働く人たちが求めているスキルを提供できるからこそ、対等に相談される相手になれる。毎回相手の熱き情熱には圧倒されますが、NPOの方々は組織のコミュニケーションという部分では経験が浅いところもあるため、その分野のプロとして自分たちを見てくれます。対等の関係を築けるところが普通のボランティア活動とはひと味違うところではないでしょうか。
※掲載内容は2014年取材時点のものです。