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アイシンに見る越境学習の効果と課題:個人の成長と組織の変革をつなぐために

1. はじめに

 

近年、企業を取り巻く環境が急速に変化する中で、イノベーションの創出や人材の育成に対する関心が高まっています。特に、多様な人々との交流や協働を通じて、自社の枠を超えた学びや気づきを得ることができる「越境学習」への注目が集まっています。

 

越境学習とは、異なる組織や業種、職種の人々が集い、共通の課題に取り組むことで、新たな視点や発想を得るための学習方法です。社員が自社の常識や慣習にとらわれず、異なる環境に身を置くことで、柔軟な思考力やコミュニケーション能力を養うことができます。

 

多くの企業の人材開発担当者は、越境学習に大きな期待を寄せています。自社の人材育成の枠組みだけでは得られない気づきや学びを、社員に提供できるからです。また、社員の自発的な学びや挑戦を促し、組織の変革を推進する原動力としても期待されています。

 

しかし、越境学習を導入・推進するには、いくつかの課題もあります。例えば、「越境学習の効果を どのように測定・評価するか」「参加者の学びを組織に還元するにはどうすればよいか」など、人材開発担当者が悩む点は少なくありません。

 

本記事では、自動車部品メーカー大手の株式会社アイシン様(以下、アイシン)における越境学習の取り組み事例を紹介します。アイシンでは、プロボノ活動を通じた越境学習プログラム「プロボノリーグ」に参加し、社員の成長と組織変革に役立てています。

 

インタビューを通じて、アイシンが越境学習に取り組む背景や目的、参加者の選抜基準、プログラムの位置づけなどを探ります。また、参加者の具体的な行動変容や成長のエピソード、組織への波及効果、効果を高めるためのポイントなども紹介します。

 

アイシンの事例を通じて、越境学習の可能性と課題について考察し、人材開発担当者の皆様に実践的なヒントを提供できれば幸いです。

2. アイシンにおける越境学習の取り組み

 

アイシンは、自動車部品メーカーとして世界的に事業を展開する企業です。近年、自動車業界を取り巻く環境が大きく変化する中で、同社は社員一人一人の意識改革と自発的な行動を促すための施策に力を入れています。その一環として、越境学習プログラム「プロボノリーグ」への参加を推進しています。

 

アイシンが越境学習を取り入れた背景について、人事担当の鈴木氏、齊藤氏は次のように説明しています。「アイシンを取り巻く正解のない激しい環境変化に対応するため、社員一人一人が変化し、挑戦する意欲を持ち続けられる、プロ人材になることを目指す」。さらに、「今、アイシンは自動車産業で100年に一度の大変化期を迎えている」と語り、カーボンニュートラルに向けた電動化の加速など、これまでの働き方では通用しない状況に直面していると述べています。

 

こうした中で、アイシンが目指すプロ人材とは、「全体最適で、持ち場・立場でなすべきことを自発的に考え行動する人」と定義されています。アイシンでは、プロ人材に求められる能力として、「変革力、人間力、問題解決力に加え競合に勝てるスキル」を挙げています。

 

アイシンが定義する「プロ人材」(アイシン提供)

 

プロボノリーグへの参加は、「プロ人材を育成するための研修プログラムの一環」として位置づけられています。参加者は手挙げ制で、「職場に日頃から課題感を持っていて気づきを職場に還元しやすい係長クラスを中心に派遣」されます。「社内では経験できない視点や刺激を得ること」で、次世代リーダーとして自身のさらなる成長につなげることが期待されています。

 

「階層一律・与える」から「多様化・自ら考えて学ぶ」へ育成体系転換(アイシン提供)

 

アイシンが越境学習者に求める7つの行動は、「全体像の把握」「視野・視座・視点の拡大」「試行錯誤しながらの意見発信」「粘り強さ」「情報収集力」「フラットなコミュニケーション」「課題設定力」などで、プロ人材に必要な行動を明確に定義しています。

 

越境型プログラムで実践してほしい7つの行動(アイシン提供)

 

プロボノリーグへの参加者は、これらの行動を実践する機会を得ることで、自身の強みと弱みを認識し、成長のために何をすべきかを考えるようになります。人事担当鈴木氏、齊藤氏は、「参加者には、行く前に上司からの期待を踏まえしっかりと目標を立てていただいている。個人の課題感や強み・弱みを踏まえて、どう変わりたいのかを明確にしてから参加してもらっている」と語ります。

 

こうした事前の準備と、明確な行動指針があることで、参加者は越境学習の場を最大限に活用することができるのです。アイシンにおける越境学習は、個人の成長だけでなく、組織変革の起点となる取り組みとして位置づけられているのです。

3. プロボノリーグ参加者の成長と変化

 

アイシンのプロボノリーグ参加者は、プログラムを通じて成長と変化を遂げています。参加者の具体的な行動変容やエピソードからは、越境学習の効果が明らかになります。

 

ある参加者の事例を紹介しましょう。Tさんは部署異動直後の参加で、この機会にリーダーシップを高めたいという明確な目的意識を持ち、チームをリードしていました。Tさんは、プロボノリーグで求められる「課題設定力」や「フラットなコミュニケーション」を実践し、自身の成長につなげていました。

 

また、Iさんは多様なメンバーをまとめ、ネガティブな雰囲気を和ませながらチームを前向きに導いていました。Iさんは、「粘り強さ」と「試行錯誤しながらの意見発信」を発揮し、チームのパフォーマンスを引き出すことに成功しました。

 

チームミーティング

 

参加者の学びを組織内で共有する取り組みも行われています。「参加者同士の振り返り共有会や社内SNSでのコミュニティ形成により、経験の共有と学びの定着を図っている」と鈴木氏、齊藤氏は説明します。TさんやIさんの行動変容が、こうした取り組みを通じて組織全体に波及しつつあるのです。

実際に、Tさんの所属部署でも変化が現れています。Tさんの部署では、上司の理解を得て、今年は複数名の派遣を宣言するなど、部署としての取り組みに発展しているそうです。

 

これは、Tさんの経験と成長が、部署の意識改革を促した成果だと言えるでしょう。

プロボノリーグ参加者の成長は、エンゲージメントや定着率にも好影響を与えています。アイシンでは、「参加者の離職は特に見られない」とのこと。むしろ、上司や職場の理解・支援がある場合、エンゲージメントの向上につながっているそうです。

4. 組織への波及効果と課題解決

 

参加した後のこうした行動は参加者だけでなく人事担当者にも好影響を与えているようです。「プロボノリーグを通じて、エンドユーザーの声に触れる機会の少なさや、トップダウン型の仕事の進め方など、組織の課題が明らかになってきました」、さらに「事業性を考えたビジネスモデルを検討する機会が必要であると感じました」と鈴木氏は述べています。

 

プロボノリーグへの参加は、プロボノリーグ参加者の成長だけでなく、組織変革の原動力になることがわかります。越境学習の効果を最大限に引き出すためには、参加者の経験を組織の学びにつなげる仕組みづくりが欠かせません。アイシンの取り組みは、その重要性を示す好例だと言えるでしょう。

 

支援先団体へ各チームから提案実施

 

ただし、組織への波及効果を最大化するには、いくつかの課題も残されています。

鈴木氏、齊藤氏は、「参加者の経験を職場に還元するのが非常に難しい」と語ります。「帰ってきた後の刺激をどう生かすのかというところで、本人が消化しきれずに、また元の状態に戻ってしまうことがある」そうです。

 

この課題を解決するためには、参加者だけでなく、上司や同僚の意識改革が不可欠です。「参加者の経験を職場で活かせるように、上司が協力することが重要」だと鈴木氏は指摘します。「そのためには、プロボノリーグの価値を組織全体で共有し、参加者の成長を支援する風土をつくることが大切」なのだと言います。

 

アイシンの事例は、越境学習の組織への波及効果を高めるには、参加者の学びを共有・実践する場をデザインすることが重要だと示唆しています。同時に、上司や同僚の理解を得ながら、組織文化や風土そのものを変革していく必要があるのです。

5. 越境学習の効果を高めるための4つのポイント

 

アイシンの事例から、越境学習の効果を高めるためのポイントがいくつか明らかになりました。人材開発担当者が留意すべき点を整理してみましょう。

 

まず、参加者へのフォローアップの重要性が挙げられます。アイシンでは、「振り返りの場の設定と上司による日常的な声かけ」を行っているそうです。人事担当者は、「社内の理解者を増やし、参加者の経験を職場に還元していくサポートが重要」だと述べています。参加者が学びを実践し、成長を継続するためには、組織からの支援が欠かせません。

 

次に、上司や職場の理解と支援を得ることが大切です。鈴木氏によると、「上司が効果を理解し、参加者の経験を職場で活かせるよう支援することが、参加者のモチベーションにもつながる」のだそうです。上司が参加者の成長を認め、その経験を職場で活用する機会を与えることで、参加者は自身の学びを実践に移しやすくなります。

 

また、失敗を許容し、チャレンジを後押しする組織文化や風土づくりも重要です。アイシンでは、「自発的に手を挙げ、学びを実践に移していくこと」を大切にしているそうです。鈴木氏は、「失敗を許容し、チャレンジを後押しする組織文化が必要」だと語ります。参加者が越境学習で得た「粘り強さ」や「試行錯誤しながらの意見発信」を発揮できる環境を整えることが、組織の変革にもつながるのです。

 

さらに、他社の取り組み事例から学ぶことも有効でしょう。アイシンの鈴木氏、齊藤氏も、「企業プラットフォームを通じて他社の動きを共有することで、新たな気づきを得ている」と述べています。他社の成功事例や課題から学び、自社の越境学習プログラムに活かすことで、効果をさらに高めることができます。

 

越境学習の効果を最大化するためには、参加者個人の意識やスキルの向上だけでなく、組織全体の意識改革と風土づくりが求められます。アイシンの事例からは、以下のようなポイントが示唆されています。

 

  1. 参加者への継続的なフォローアップと支援
  2. 上司や職場の理解と協力の獲得
  3. 失敗を許容し、チャレンジを奨励する組織文化の醸成
  4. 他社の取り組み事例からの学びと応用

 

これらの点に留意しながら、越境学習プログラムを設計・運営することが、人材開発担当者に求められているのです。

 

アイシンの取り組みは、越境学習の可能性を示すと同時に、その効果を組織に定着させるための課題についても示唆を与えてくれます。個人の成長と組織の変革を両輪で進めることが、越境学習の真の価値を引き出すカギになるでしょう。

6. おわりに

 

本記事では、株式会社アイシン様の事例を通じて、越境学習の可能性と課題について探ってきました。アイシンの取り組みからは、越境学習が個人の成長だけでなく、組織変革の原動力にもなり得ることがわかります。

 

プロボノリーグへの参加は、社員に新たな視点と経験を与え、自発的な行動変容を促しています。参加者は、社会課題の解決に取り組む中で、「視野・視座・視点の拡大」や「フラットなコミュニケーション」といったスキルを身につけています。こうした個人の成長は、組織の変革にもつながっているのです。

 

 

アイシンの人事担当者は、「社内外の多様な人々との対話と協働から、イノベーティブな発想が生まれる」と語ります。越境学習は、社員一人一人のマインドセットを変え、組織の枠を超えた協働を促すことで、新たな価値創造の可能性を切り拓くのです。

 

ただし、越境学習の効果を最大限に引き出すためには、個人の学びを組織の学びに昇華させる仕組みづくりが欠かせません。アイシンの事例からは、「参加者だけでなく、上司や組織全体の意識改革と仕組みづくりが求められる」ことが明らかになりました。

 

越境学習は、一部の社員だけが参加する特別なプログラムではありません。むしろ、越境学習で得られた知見やスキルを、組織全体で共有・実践することが重要です。

効果を最大限に発揮するためにも、経営層や他部署との連携を図り、個人と組織の学びをつなぐ全社的な取り組みとして越境学習を位置づける必要があります。

 

越境学習は、一人一人の社員が、自発的な学びによって自らの可能性を切り拓き、組織の変革を主体的に担う存在へと成長する機会となります。社会の変化が加速する中、組織の変革を推進する原動力として、越境学習を活用してみては如何でしょうか。アイシンの事例は、その一つの道しるべになるはずです。

 

越境学習は、社員と組織の可能性を引き出す強力なツールです。その効果を最大限に発揮するためには、個人と組織の学びをつなぐ仕組みづくりと、全社的な意識改革が不可欠です。人材開発担当者の皆様には、越境学習の本質的な価値を見極め、自社の人材育成や組織開発に活かしていただきたいと思います。

 

社会の変化が加速する中、越境学習はこれからますます重要になっていくでしょう。一人一人の社員が、自らの可能性を切り拓き、組織の変革を主体的に担う存在になること。それこそが、越境学習の究極の目的だと言えます。アイシンにおける挑戦は、人材開発担当者の皆様にとっても、示唆に富む事例となるかと思います。アイシンの取り組みを一つの指針として、越境学習の可能性をさらに追求していきましょう。

 プロボノリーグについて

社会課題解決型 越境学習プログラム「プロボノリーグ」は、下記ページにて詳細をご案内しております。

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